フリーランスエンジニアの実務

勘定科目の地図

この部の 3 / 7 章 ・ 全体で 12 / 53 章 ・ 読了目安 18

この章を読むとできるようになること
  • 勘定科目を選ぶ基準を持てる
  • 一度決めた科目を継続適用すべき理由を説明できる

「サーバー代は通信費? それとも支払手数料?」

この手の質問には、先に結論があります。

1. 税法上「この支出はこの科目でなければならない」という決まりは、ほとんど無い
2. だから「どちらでもよい」ことが多い
3. ただし、一度決めたら毎年同じにする(継続性)
4. 金額が大きいものだけ、慎重に決める

科目選びで悩む時間は、ほぼ無駄です。この章はその悩みを終わらせるためにあります。

勘定科目は何のためにあるか

勘定科目は、集計の単位です。目的は2つあります。

1. 決算書(損益計算書)に、どの区分で載せるかを決める
2. 自分が「何にいくら使ったか」を後から見られるようにする

2番目が実は重要です。通信費に年間80万円と出れば「何にそんなに?」と検証できます。 すべてを「雑費」にしていたら、何も分かりません。

雑費が多い帳簿は疑われる

雑費は「どこにも当てはまらない少額の支出」のための科目です。

雑費が経費全体の大きな割合を占めていると、中身を説明できない帳簿に見えます。 税務調査で最初に開かれるのは、金額の大きい科目と、この雑費です。

迷ったら雑費、ではなく、迷ったら近い科目を作るほうが健全です。

エンジニアが使う科目

収益

科目内容
売上高開発・保守・コンサルティングなど本業の報酬
雑収入本業以外の収入(アフィリエイト、少額の原稿料、給付金など)

費用(よく使うもの)

科目内容具体例
通信費通信・回線・クラウド自宅回線、携帯、ドメイン、AWS、レンタルサーバー
消耗品費10万円未満の物品・備品キーボード、モニタ、ケーブル、文具、10万円未満の PC
新聞図書費書籍・技術情報技術書、電子書籍、有料記事の購読
支払手数料手数料・利用料振込手数料、決済手数料、SaaS 利用料、エージェント手数料
外注費他の事業者への発注業務の一部を他のフリーランスに依頼
地代家賃家賃・スペース利用料自宅家賃の按分、コワーキング、レンタルオフィス
水道光熱費電気・ガス・水道自宅の電気代の按分
旅費交通費移動・宿泊電車、タクシー、出張の宿泊費
接待交際費取引先との飲食・贈答顧客との会食、手土産、お祝い
会議費打ち合わせの費用カフェでの打ち合わせ、会議室代
研修費学習・スキル習得カンファレンス参加費、オンライン講座
諸会費団体・コミュニティ業界団体の会費、有料コミュニティ
広告宣伝費集客名刺、Web サイト制作、広告出稿
減価償却費資産の費用配分PC・機材の償却額(減価償却
租税公課税金・公的負担個人事業税、印紙代、固定資産税の按分
損害保険料事業の保険賠償責任保険、事務所の火災保険
雑費どこにも入らない少額ごく少額のもの限定
SaaS 系は「通信費」か「支払手数料」に寄せて統一する

AWS・GitHub・Slack・Figma・ChatGPT——この種の月額課金は、 通信費・支払手数料・消耗品費のどれでも説明が付きます

おすすめは、自分でルールを1本決めることです。

例:
  インフラ・回線・ドメイン系 → 通信費
  ソフトウェア・SaaS のサブスク → 支払手数料(または「システム利用料」を新設)

大事なのは、毎年同じ基準で分類することです。年ごとに変わると、 前年比較ができなくなり、説明もしにくくなります。

自分で科目を作ってよい

会計ソフトでは勘定科目を追加できます。エンジニアなら、次のような科目が便利です。

「システム利用料」  … SaaS・クラウドサービスの月額
「支払手数料」から分離すると、年間のツールコストが一目で分かる

「サーバー費」      … AWS・GCP・VPS
インフラ費用を単独で追跡したい場合
決算書に載せる時は既定の科目に寄せる

青色申告決算書には、あらかじめ科目欄が印刷されています。 独自科目は「その他の経費」の空欄に記載する形になります。

会計ソフトは自動で処理しますが、科目を作りすぎると決算書が読みにくくなります。 新設は年に数個までにしておくのが実務的です。

外注費と給与の違いは重要

これは「どちらでもよい」ではありません。税務上まったく違います

外注費給与
相手独立した事業者雇用している人
源泉徴収原則不要(一部の報酬を除く)必要
消費税課税仕入れになる(インボイス要件あり)対象外
社会保険不要条件により加入義務
実態が雇用なら、外注費にはできない

知人に手伝ってもらった対価を「外注費」で処理していても、実態が

  • 時間で拘束している
  • 作業内容を細かく指示している
  • 道具や環境をこちらが提供している

であれば、給与と判定されるリスクがあります。 給与と認定されると、源泉徴収漏れとして追徴と不納付加算税が来ます。

外注するなら、業務委託契約書を交わし、請求書を受け取り、成果物ベースで支払ってください (請負・準委任・派遣)。

個人事業特有の科目

科目意味
事業主貸事業のお金を私的に使った(生活費の引き出しなど)
事業主借私的なお金を事業に使った(プライベート口座で経費を払った)
元入金事業の元手。期首の純資産に相当(貸借対照表と損益計算書

これらは事業主貸・事業主借でまとめて扱います。

迷った時の決め方

1. 「この支出は何のためか」を一言で言う
2. その言葉に近い科目を選ぶ
3. 同じ種類の支出を過去にどう処理したか調べ、それに合わせる
4. どうしても決まらないなら、金額の大きさで判断する
     大きい → 単独の科目を作って明示する
     小さい → 近い科目に入れて、以後も同じにする
5. 一度決めたら、途中で変えない
科目より、経費かどうかのほうが100倍重要

税務調査で問われるのは「その支出は事業に必要だったか」であって、 「通信費か支払手数料か」ではありません(経費とは何か)。

科目選びに30分悩むくらいなら、按分の根拠を1行メモに残すほうが、 はるかに自分を守ります。

毎月、AWS に約4万円、GitHub に3,000円、Adobe に6,000円を支払っています。昨年は AWS を通信費、GitHub を消耗品費、Adobe を雑費で処理していました。今年はどうすべきでしょうか?

この章のまとめ

  • 勘定科目は集計の単位。税法上どの科目でなければならない、という決まりはほとんど無い
  • 選び方の原則は継続性。一度決めた基準を毎年変えない
  • 雑費が多い帳簿は説明できない帳簿に見える。近い科目を作るほうが健全
  • SaaS・クラウドは通信費・支払手数料のどちらでもよい。自分のルールを1本決める
  • 独自科目は作ってよいが、作りすぎると決算書が読みにくくなる
  • 外注費と給与の区別だけは重要。実態が雇用なら源泉徴収漏れになる
  • 科目選びより、経費かどうかと按分の根拠のほうがはるかに重要

参考資料

対象リンク
国税庁 青色申告決算書の書き方https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/
国税庁 No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2792.htm
国税庁 給与と外注費の区分https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/07/01.htm
読み終わったら記録しておくと、目次で進み具合が分かります。