偽装請負と常駐案件
この部の 6 / 6 章 ・ 全体で 46 / 53 章 ・ 読了目安 20 分
この章を読むとできるようになること
- 偽装請負と判定される要素を説明できる
- 常駐案件で自分を守る記録の残し方が分かる
常駐案件で、こんな状況になっていませんか。
□ 毎朝9時までに出社(またはログイン)し、勤怠を報告する
□ 発注者の社員から直接、作業の指示を受ける
□ 作業の進め方・手順を発注者が決める
□ 発注者の PC・アカウントを使う
□ 突発的な依頼が飛んできて、その場で対応する
これは、偽装請負の疑いがある状態です。
偽装請負とは
契約は請負・準委任なのに、実態は労働者派遣(または雇用)である状態
労働者派遣は許可を受けた事業者しか行えません。 また、個人事業主は派遣の当事者になれません(請負・準委任・派遣)。
契約の形と実態が食い違っていること自体が問題になります。
| 誰が問題になるか | 内容 |
|---|---|
| 発注者 | 労働者派遣法違反、職業安定法違反のおそれ |
| 仲介会社 | 無許可の労働者供給に当たるおそれ |
| フリーランス | 直接の罰則対象になることは通常ないが、立場が不安定になる |
判断の基準
厚生労働省の告示(いわゆる37号告示)などにより、 請負として認められるための基準が示されています。要点はこうです。
□ 業務の遂行方法について、自ら指示・管理しているか
□ 労働時間・休憩・休日を自ら決めているか
□ 業務の遂行に必要な機材・資材を自ら調達しているか
□ 自己の責任で業務を処理しているか(単なる肉体的労働力の提供でないか)
□ 専門的な技術・経験に基づいて業務を処理しているか
「発注者の指揮命令下にあるか」が中心の判断軸です。
指揮命令とは何か
指揮命令に当たりやすいもの:
・作業の順序、方法、手順を具体的に指示する
・始業・終業時刻を管理し、遅刻・早退を評価する
・残業を命じる
・業務内容を随時変更する
・他の作業員と混在して同じ指示系統に入っている
指揮命令に当たりにくいもの:
・成果物の仕様・要件を伝える
・進捗の報告を求める
・打ち合わせに参加してもらう
・セキュリティ規程の遵守を求める
「何を作るか」を伝えるのは指示ではありません。 「どう作るか・いつ働くか」を決めるのが指揮命令です。
なぜフリーランスにとって問題か
罰則の対象になるのは主に発注者側ですが、不利益は自分に来ます。
□ 実態が雇用と判断されると、報酬が「給与」として扱われる可能性
→ 消費税の仕入税額控除ができない(発注者側の問題)
→ 自分の側でも経費計上の前提が崩れる
□ 事業所得ではなく給与所得と判定されるリスク([個人事業主とは何か](/chapters/what-is-sole-proprietor/))
→ 青色申告特別控除・経費が使えなくなる
□ 問題が発覚した時に、案件が突然終了する
□ 労働者としての保護も、事業者としての自由も、どちらも得られない状態
最悪なのは「両方の悪いところ取り」
労働者なら … 労働時間の保護、最低賃金、社会保険、有給、解雇規制がある
事業者なら … 働き方の自由、単価の交渉力、複数案件の並行がある
偽装請負 … 拘束はされるが、保護はない
この状態を放置すると、単価も自由も上がりません。
多重下請け
発注元 → 元請け → 一次請け → 二次請け → あなた
□ 中間マージンが積み重なり、単価が下がる
□ 契約上の相手と、実際に指示を出す人が違う(=指揮命令の混乱)
□ 責任の所在が不明確
□ 問題が起きた時に、間の会社が守ってくれるとは限らない
商流を確認する
「今回の案件は、御社が元請けでしょうか。
実際の業務指示は、どちらの会社の方からいただく形になりますか」
契約前に聞いてよい質問です。 商流が深い案件ほど、単価が下がり、指揮命令の線引きが曖昧になります。
常駐案件で自分を守る
現実には、常駐・準委任で働く場面は多くあります。 契約を守れる形に整えるのが実務的な対応です。
□ 契約書上の指揮命令系統を確認する(誰から業務の依頼を受けるか)
□ 作業の進め方は自分で決める(何を作るかは合意する)
□ 稼働時間を自分で管理し、報告する(=勤怠管理を受けるのではなく、報告する)
□ 契約の範囲外の依頼は、いったん持ち帰って可否を判断する
□ 依頼と成果を記録に残す(チャット・チケット)
「報告」と「管理される」は違う
○ 稼働時間を自分で記録し、月末に報告する(精算のため)
○ 進捗を朝会で共有する(プロジェクト運営のため)
× 遅刻として扱われ、評価や報酬の減額につながる
× 休憩時間や離席を管理される
実務では線引きが曖昧になりがちですが、 自分がどちら側で振る舞うかは選べます。
記録の残し方
トラブルになった時、記録がある側が強いです。
□ 依頼はチャット・チケットなど、後から見返せる場所で受ける
□ 口頭で受けた依頼は、自分で要約して書き戻す
「先ほどの件、〇〇を△△までに対応する認識で進めます」
□ 契約範囲外の作業を求められたら、その場で確認する
□ 稼働時間を自分で記録する(精算幅の証拠になる。[請負・準委任・派遣](/chapters/contract-types/))
おかしいと感じたら
1. まず契約書を読み返す(業務内容・指揮命令・稼働の定め)
2. 契約と実態のズレを整理する
3. 契約相手(元請け・エージェント)に確認する
4. 改善されない場合、フリーランス・トラブル110番などに相談する
声を上げると案件が切られる、という現実
これは実際に起きます。だからこそ、
□ 収入源を1社に依存しない([案件の取り方](/chapters/finding-work/))
□ 生活費6ヶ月分の現金を持つ([独立する前に確かめること](/chapters/before-going-freelance/))
この2つがあると、おかしい条件を断れます。 交渉力の源泉は、最終的に「断れること」です。
準委任契約で常駐しています。契約上の相手はエージェント会社ですが、実際には常駐先の部長から日々の作業指示を受け、始業・終業の打刻を求められ、残業も指示されています。この状況の最大の問題は何でしょうか?
この章のまとめ
- 偽装請負は、契約の形と実態が食い違っている状態
- 判断の中心は「発注者の指揮命令下にあるか」
- 「何を作るか」を伝えるのは指示ではない。「どう作るか・いつ働くか」を決めるのが指揮命令
- 罰則の主な対象は発注者側だが、不利益は自分に来る(案件の突然終了、所得区分の判定)
- 最悪なのは拘束はされるが保護はない状態
- 多重下請けは単価を下げ、指揮命令を曖昧にする。商流は契約前に確認してよい
- 常駐でも、進め方は自分で決め、稼働は自分で管理して報告する形に整える
- 記録がある側が強い。依頼はチャット・チケットで受け、口頭は書き戻す
- 断れる状態を作る。収入源の分散と生活費6ヶ月分が交渉力の源泉
参考資料
| 対象 | リンク |
|---|---|
| 厚生労働省 労働者派遣・請負を適正に行うために | https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/ |
| 厚生労働省 労働者派遣・請負を適正に行うために | https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/ |
| 公正取引委員会 フリーランス法 | https://www.jftc.go.jp/ |
| フリーランス・トラブル110番 | https://freelance110.mhlw.go.jp/ |
読み終わったら記録しておくと、目次で進み具合が分かります。