フリーランスエンジニアの実務

貸借対照表と損益計算書

この部の 4 / 7 章 ・ 全体で 13 / 53 章 ・ 読了目安 20

この章を読むとできるようになること
  • BS と PL がそれぞれ何を写した写真か説明できる
  • 利益が出ているのに現金が無い状態を説明できる

決算書は2枚あります。損益計算書(PL)貸借対照表(BS) です。

違いを一言でいうと、

損益計算書 = 1年間の「動画」   (1年でいくら稼ぎ、いくら使ったか)
貸借対照表 = 12月31日の「写真」(その瞬間、何を持ち、何を負っているか)

青色申告特別控除65万円には、この2枚の添付が必要です。 そして BS を出せるのが、複式簿記で記帳した人だけ、という構造になっています。

損益計算書(PL)

構造は単純です。

  売上高                     8,400,000
  − 売上原価(あれば)                0
            ─────────────
  売上総利益                 8,400,000

  − 経費
      通信費                   480,000
      地代家賃                 720,000
      消耗品費                 250,000
      新聞図書費                60,000
      減価償却費               180,000
      支払手数料               190,000
      旅費交通費               120,000
            ─────────────
  差引金額(所得)           6,400,000

  − 青色申告特別控除            650,000
            ─────────────
  所得金額                   5,750,000  ← ここが所得税の出発点
エンジニアに売上原価はあまり出てこない

売上原価は、仕入れた商品や材料の原価です。 受託開発や準委任では通常発生しません(外注費は経費として計上)。

物販やハードウェアを扱う場合のみ、期末の棚卸が必要になります(決算整理でやること)。

貸借対照表(BS)

12月31日時点の状態を、左右で表します。

  ┌─────────────────────┬─────────────────────┐
  │ 資産の部            │ 負債の部            │
  │  普通預金 1,200,000 │  未払金     150,000 │
  │  売掛金     500,000 │  借入金           0 │
  │  工具器具備品        ├─────────────────────┤
  │            240,000  │ 元入金・純資産の部  │
  │  事業主貸 3,000,000 │  元入金     800,000 │
  │                     │  事業主借   190,000 │
  │                     │  青色申告特別控除前 │
  │                     │  の所得   3,800,000 │
  ├─────────────────────┼─────────────────────┤
  │ 合計      4,940,000 │ 合計      4,940,000 │
  └─────────────────────┴─────────────────────┘
                左右は必ず一致する

左右が一致しない BS は、どこかで記帳が壊れています。 会計ソフトは自動で一致させますが、 預金残高が実際と違うのような形で歪みが表に出ます(よくある登録ミスと直し方)。

個人事業の BS の特徴

項目意味
元入金法人の資本金に相当する「元手」。ただし毎年変わる
事業主貸1年間に事業から私的に引き出した累計。期末に元入金へ振り替わる
事業主借1年間に私的資金から事業へ入れた累計。同じく期末に振り替わる

翌年の元入金は、こう計算されます。

翌年の元入金 = 今年の元入金
             + 今年の所得(青色申告特別控除前)
             + 事業主借
             − 事業主貸
元入金がマイナスでも異常ではない

生活費として引き出した額(事業主貸)が所得より多ければ、元入金はマイナスになります。

個人事業では珍しくありません。 事業の資金を生活費に使いすぎているというシグナルではあるので、 数字として認識しておく価値はあります。

利益とお金は一致しない

フリーランスが最初に驚くのがこれです。

「今年の所得は640万円。でも通帳には120万円しかない」

理由は、利益と現金の動きがずれるからです。

ずれる原因内容
売掛金売上に計上したが、まだ入金されていない
未払金経費に計上したが、まだ払っていない
固定資産の購入現金は出たが、経費になるのは減価償却分だけ
事業主貸現金は出たが、経費ではない(生活費)
税金・社会保険翌年に払うが、経費にならないものもある(所得税・住民税)
黒字倒産はフリーランスにも起きる
12月: 大型案件を納品(売上500万円を計上)
      → 所得が増え、翌年の税額が確定
 3月: 所得税の納付期限
 4月: 入金がまだ(支払サイトが長い、または取引先が遅延)
      → 払う現金が無い

税金は利益に対してかかり、現金の有無は考慮されません。 だから納税カレンダーと資金繰りで「納税用の口座を分ける」話をします。

青色申告決算書の4ページ

実際に提出する書類は4ページ構成です。

ページ内容
1ページ目損益計算書
2ページ目月別の売上・仕入、給料賃金の内訳、専従者給与
3ページ目減価償却費の計算、地代家賃の内訳、利子割引料
4ページ目貸借対照表
3ページ目の「地代家賃の内訳」は按分の申告そのもの

自宅家賃を按分して経費にした場合、3ページ目に 貸主の名前・物件・年間賃借料・そのうち必要経費算入額を書きます。

つまり按分していること自体は申告書に書いてあるわけです。 隠すものではなく、根拠を持って堂々と書くものです(家事按分の考え方)。

数字をどう使うか

決算書は税務署に出すためだけのものではありません。経営判断に使えます

□ 経費率(経費 ÷ 売上)
    前年と比べて上がっていれば、何が増えたかを科目で追う

□ 固定費(毎月必ず出る額)
    地代家賃 + 通信費 + 保険料 + 生活費
    → 案件が切れた時、手元資金で何ヶ月持つか

□ 実質的な時間単価
    所得 ÷ 実稼働時間(学習・営業・事務も含める)
    → 「月80万円」の案件が本当に高単価かが見える

□ 売掛金の残高
    増え続けているなら、回収が遅れている可能性([請求から回収まで](/chapters/billing-and-collection/))

12月31日時点で、事業用口座の残高は80万円、売掛金が300万円(1月・2月に入金予定)、カードの未払金が40万円あります。今年の所得は600万円でした。3月の納税に向けて、最初に確認すべきことは何でしょうか?

この章のまとめ

  • PL は1年間の動画、BS は12月31日の写真。65万円控除には両方の添付が要る
  • PL の最後の「所得金額」が、所得税計算の出発点
  • BS の左右は必ず一致する。ずれは預金残高の不一致などの形で表に出る
  • 個人事業の BS には元入金・事業主貸・事業主借が出てくる。元入金は毎年変わる
  • 利益と現金は一致しない。売掛金・未払金・固定資産・事業主貸・税金がずらす
  • 決算書3ページ目の地代家賃の内訳は、家事按分の申告そのもの。根拠を持って書く
  • 決算書は経費率・固定費・実質時間単価・売掛金残高という経営指標として使える

参考資料

対象リンク
国税庁 青色申告決算書(一般用)の書き方https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/
国税庁 確定申告書等の様式・手引きhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/
読み終わったら記録しておくと、目次で進み具合が分かります。