フリーランスエンジニアの実務

開業届と青色申告承認申請書

この部の 2 / 6 章 ・ 全体で 5 / 53 章 ・ 読了目安 20

この章を読むとできるようになること
  • 開業届と青色申告承認申請書の役割の違いを説明できる
  • 提出期限を逃した場合に何が起きるか判断できる
  • 書類の各欄を自分の状況で埋められる

個人事業主のスタートは、A4の紙2枚です。

  1. 個人事業の開業・廃業等届出書(通称: 開業届)
  2. 所得税の青色申告承認申請書

1枚目は「始めました」という報告。2枚目が本命で、こちらを出し忘れると その年の節税が丸ごと消えます。両方まとめて出してください。

1枚目: 開業届

何を書くか注意
税務署名納税地を管轄する税務署国税庁サイトで郵便番号から検索できる
納税地原則は住所地(自宅)自宅と別に事務所があるなら事業所も選べる
氏名・生年月日本人
個人番号マイナンバー本人確認書類が必要
職業「ソフトウェア開発業」「情報処理サービス業」など個人事業税の判定に関わる(後述)
屋号任意。無くてもよい屋号口座を作るなら必要
届出の区分開業
所得の種類事業所得
開業・廃業等日開業日ここから2ヶ月が青色申請の期限
開業に伴う届出書の提出の有無青色申告承認申請書「消費税の課税事業者選択届出書は通常「無」
事業の概要「受託によるソフトウェアの設計・開発」など具体的に
給与等の支払の状況人を雇わないなら空欄雇うなら別途届出が必要
開業日はある程度自分で決められる

開業日に厳密な定義はありません。実務では、

  • 最初の案件の契約日
  • 退職の翌日
  • 準備を始めた日

などから選びます。開業日から2ヶ月以内が青色申告承認申請の期限なので、 古い日付にしすぎると期限を自分で縮めることになります。

なお、開業日に使った準備費用(PC・名刺・Web サイト制作など)は 「開業費」としてまとめて資産計上し、任意の年に経費化できます(減価償却)。 開業日を後ろにすると、この開業費の範囲は広がります。

職業欄は個人事業税に影響する

個人事業税は法定業種に該当する場合にかかります(住民税・個人事業税・国民健康保険料)。 ソフトウェア開発は、実態により「請負業」等として課税対象と判断されることが多いです。

ただし、職業欄の書き方だけで決まるわけではありません。実態で判断されます。 「該当しないように書く」のではなく、実態を正しく書くのが原則です。 判断に迷ったら都道府県税事務所に確認してください(国税ではなく地方税です)。

2枚目: 青色申告承認申請書

こちらが本命です。65万円控除・赤字の3年繰越・30万円未満の資産の一括経費化が まとめて手に入ります。

書き方
納税地・氏名開業届と同じ
職業・屋号開業届と同じ
令和◯年分以後の所得税の申告は……適用したい最初の年を書く
事業所又は所得の基因となる資産の名称・所在地自宅なら住所
所得の種類事業所得
いままでに青色申告承認の取消しを受けたこと……通常は「無」
本年1月16日以後新たに業務を開始した場合、その年月日開業日
簿記方式複式簿記(ここを単式にすると10万円控除になる)
備付帳簿名総勘定元帳・仕訳帳を最低限チェック。現金出納帳・売掛帳・買掛帳・経費帳・固定資産台帳も可
簿記方式で「簡易簿記」を選ぶと、控除は10万円になる

会計ソフトを使えば複式簿記の帳簿は自動で作られます。 迷わず「複式簿記」を選んでください。

備付帳簿名も、会計ソフトが出力するものにチェックを入れておけば足ります (総勘定元帳と仕訳帳は必須)。

提出方法は3つ

1. e-Tax で出す(マイナンバーカード + スマホ or IC カードリーダー)
   → 24時間出せる。受信通知が控えになる

2. 郵送する
   → 2部同封し、返信用封筒(切手を貼る)を入れる。控えに収受印が押されて返ってくる

3. 税務署に持参する
   → その場で控えに収受印をもらえる。書き方を教えてもらえるのが利点
控えは必ず取っておく

開業届の控え(収受印または e-Tax の受信通知)は、後で何度も要求されます。

□ 屋号名義の銀行口座の開設
□ 事業用クレジットカードの申込
□ 融資・補助金の申請
□ 保育園の入園申込(就労証明)
□ 賃貸契約・住宅ローンの審査

控えが無いと再発行は面倒です(保有個人情報の開示請求という手続きになります)。 PDF にしてクラウドにも置いておいてください。

開業届の作成を楽にするツール

freee やマネーフォワードは、開業届と青色申告承認申請書を無料で作れるツールを出しています。 質問に答えると PDF ができ、e-Tax 送信や印刷用の書類が出ます。

利点: 記入漏れが起きにくい。職業欄・帳簿名の選択肢が用意されている
注意: 会計ソフトの契約とは別物。作成だけ使って別のソフトを契約してもよい

国税庁の様式を直接ダウンロードして手書きでも、まったく問題ありません。

一緒に検討する届出

届出出すのはどんな時期限
青色事業専従者給与に関する届出書家族に給与を払う3月15日または開業から2ヶ月以内
給与支払事務所等の開設届出書人を雇う1ヶ月以内
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書人を雇い、納付を年2回にまとめたい随時
適格請求書発行事業者の登録申請書インボイスを発行する(インボイス制度とフリーランス登録を受けたい時期による
消費税課税事業者選択届出書あえて課税事業者になる適用したい課税期間の前日まで
消費税の届出は、よく分からないうちは出さない

開業直後は原則として消費税の免税事業者です(消費税の仕組み)。 「消費税課税事業者選択届出書」を安易に出すと、2年間は戻れなくなります

インボイス登録は必要になったときに検討してください。 こちらも一度登録すると、取りやめには期限のルールがあります。

6月1日に開業しました。開業届は6月中に提出済みです。青色申告承認申請書も一緒に出したつもりでしたが、控えを見ると開業届しかありません。今日は8月10日です。どうするのが正しいでしょうか?

この章のまとめ

  • 開業に必要なのは紙2枚。開業届青色申告承認申請書
  • 本命は青色申告承認申請書。開業から2ヶ月以内、この期限だけは絶対に守る
  • 申請書の簿記方式は「複式簿記」。簡易簿記を選ぶと控除が10万円に落ちる
  • 職業欄は実態を正しく書く。個人事業税の判定に関わるが、書き方で決まるものではない
  • 開業日は自分で決められる。開業前の準備費用は「開業費」として後から経費化できる
  • 控えは何度も要求される(屋号口座・カード・融資・保育園)。必ず保管する
  • 消費税関係の届出は、分からないうちは出さない。一度選ぶと数年戻れない

参考資料

対象リンク
国税庁 個人事業の開業・廃業等届出書https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm
国税庁 所得税の青色申告承認申請手続https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/09.htm
国税庁 税務署の所在地案内https://www.nta.go.jp/about/organization/access/map.htm
e-Taxhttps://www.e-tax.nta.go.jp/
読み終わったら記録しておくと、目次で進み具合が分かります。