現金主義と発生主義
この部の 5 / 7 章 ・ 全体で 14 / 53 章 ・ 読了目安 20 分
- 入金日ではなく計上日で期を分ける理由を説明できる
- 12月納品・1月入金の案件を正しく処理できる
「12月に納品して、入金が1月。この売上はどっちの年?」
答えは12月(納品した年) です。お金が動いた日ではなく、権利が確定した日で決めます。 これを発生主義といいます。
たった1つのルールですが、年をまたぐたびに迷うところなので、この章で片付けます。
いつ計上するか
| 種類 | 計上のタイミング |
|---|---|
| 売上(受託・請負) | 納品・検収が完了した日(引渡しの日) |
| 売上(準委任・保守) | 役務の提供が完了した日(月額ならその月の末日が一般的) |
| 経費(物) | 引き渡しを受けた日 |
| 経費(サービス) | サービスの提供を受けた日 |
原則: お金の動きではなく、「取引が成立した日」で計上する
支払サイトは取引先の都合で決まります。 月末締め翌月末払いの会社もあれば、翌々月末の会社もあります。
現金の動きで区切ると、同じ仕事をしているのに、取引先の支払サイト次第で 所得の年が変わってしまう。これでは所得を正しく測れません。
だから「仕事が終わった日」で区切るのが原則になっています。
年またぎの典型例
例1: 12月納品・1月入金(売上)
12月20日 納品・請求書発行
借方: 売掛金 500,000 貸方: 売上高 500,000 ← 今年の売上
1月31日 入金
借方: 普通預金 500,000 貸方: 売掛金 500,000 ← 売掛金の消込だけ
入金時に売上を立てないのが要点です。立てると二重計上になります。
例2: 12月利用・1月引き落とし(経費)
AWS の12月分が1月26日に引き落とされるケースです。
12月31日(決算整理)
借方: 通信費 40,000 貸方: 未払金 40,000 ← 今年の経費
1月26日 引き落とし
借方: 未払金 40,000 貸方: 普通預金 40,000
例3: 12月に1年分を前払いした(前払費用)
12月1日に、翌年1月〜12月分のドメイン・サーバー代 60,000円を支払った
本来: 翌年の費用なので、今年の経費にはならない
借方: 前払費用 60,000 貸方: 普通預金 60,000
ただし、支払日から1年以内に提供を受けるサービスで、 毎年継続して同じ処理をするなら、支払った年の経費にできる特例があります。
対象になりやすいもの: サーバーの年額契約、ドメイン、保険料、家賃の年払い
条件: 等質・等量のサービスであること/毎年同じ処理を継続すること
対象にならないもの: 一括で受ける役務(コンサル一括契約など)
「今年だけ経費を増やしたいから年払いにする」は認められません。 継続適用が条件です。
例4: 12月に受け取った着手金(前受金)
12月に着手金30万円を受領。納品は翌年3月
借方: 普通預金 300,000 貸方: 前受金 300,000 ← まだ売上ではない
翌年3月 納品時
借方: 前受金 300,000 貸方: 売上高 300,000 ← ここで売上
freee は入金明細から「売上」を推測することがあります。 着手金・前受金・保証金・立替金の返金は売上ではありません。
年末年始の明細は、必ず1件ずつ中身を確認してください。
現金主義という例外
小規模な事業者には、現金主義で記帳できる特例があります。
条件: 前々年の事業所得等が300万円以下
かつ「現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書」を提出
効果: 入出金の日で計上してよい(売掛金・未払金の管理が不要)
代償: 青色申告特別控除は 10万円 になる
65万円控除と10万円控除の差は、税率20%なら年20万円前後です。 会計ソフトを使えば発生主義の記帳は自動でできます。
現金主義を選ぶ理由は、実務上ほとんどありません。
実務での運用
年末年始にやることは、実質これだけです。
□ 12月中に完了した仕事で、未請求・未入金のものを売掛金に計上する
□ 12月分のクラウド・通信・カード利用で、引き落としが1月のものを未払金に計上する
□ 年払いした費用のうち、翌年分が含まれるものを確認する(前払費用 or 短期前払費用の特例)
□ 12月に受け取った入金のうち、まだ納品していないものを前受金にする
□ 1月の入金明細を、前年の売掛金と突き合わせる
freee では、請求時に「収入 / 未決済」で登録すると売掛金が立ちます。 入金時には、同期された明細をその未決済取引に消込します。
「未決済取引の一覧」を見れば、未回収の売掛金がそのまま把握できます。 これは回収管理(請求から回収まで)にも使えます。
準委任契約で毎月80万円を受け取っています。契約は「月末締め、翌月末払い」です。12月分の作業は12月31日まで行い、入金は1月31日でした。12月分の売上はどう扱うべきでしょうか?
この章のまとめ
- 原則は発生主義。お金が動いた日ではなく、取引が成立した日で計上する
- 受託は納品・検収の日、準委任・保守はその月の末日が計上日
- 入金時に売上を立てない。売掛金の消込だけを行う(立てると二重計上)
- 12月利用・1月引き落としの費用は、未払金として今年の経費にする
- 年払いは原則前払費用。ただし短期前払費用の特例を継続適用するなら支払年の経費にできる
- 着手金・前受金は売上ではない。納品時に振り替える
- 現金主義の特例はあるが、控除が10万円に落ちるため実務上は不利
参考資料
| 対象 | リンク |
|---|---|
| 国税庁 No.2200 収入金額とその計算 | https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2200.htm |
| 国税庁 No.2210 必要経費の知識 | https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm |
| 国税庁 短期前払費用の取扱い | https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/07/03.htm |
| 国税庁 現金主義による所得計算の特例 | https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2075.htm |