フリーランスエンジニアの実務

知的財産・著作権・OSS

この部の 3 / 6 章 ・ 全体で 43 / 53 章 ・ 読了目安 24

この章を読むとできるようになること
  • 納品物の権利帰属条項の意味を理解できる
  • 自分のライブラリを再利用できる契約にできる
  • 業務で OSS を使う時の確認事項を挙げられる

あなたが書いたコードの著作権は、最初はあなたのものです。

会社員時代とは違います。会社員のコードは職務著作として会社のものになりますが、 それは雇用関係が前提の制度です。業務委託には適用されません。

著作権は、契約で譲渡しない限り、創作した本人に残る

だからこそ、契約書に権利の帰属条項が入ります。この章はその読み方です。

著作権の基本

権利内容譲渡
著作権(財産権)複製・翻案・公衆送信などの権利譲渡できる
著作者人格権公表権・氏名表示権・同一性保持権譲渡できない(一身専属)
著作権は登録なしで発生する

プログラムを書いた瞬間に発生します。登録も表示(Copyright 表記)も不要です。

よくある権利帰属条項

パターン1: 全部譲渡(発注者に有利)

「本件成果物に関する著作権(著作権法第27条および第28条の権利を含む)は、
 甲による検収完了時をもって、甲に移転する」
27条・28条の明記がないと譲渡されない
著作権法 第27条 … 翻訳権、翻案権等
著作権法 第28条 … 二次的著作物の利用に関する原著作者の権利

これらは、契約に明記していないと譲渡した側に留保されると推定されます。 発注者側の契約書に必ずこの文言があるのは、そのためです。

受注側としては「この2条を除いて譲渡する」という交渉もありえますが、 発注者が飲むことは多くありません。

パターン2: 著作者人格権の不行使

「乙は、甲および甲が指定する第三者に対して、著作者人格権を行使しない」

著作者人格権は譲渡できないため、不行使特約という形が使われます。 実務上は一般的な条項です。

パターン3: 汎用部分の留保(受注者に有利)

「前項にかかわらず、乙が本契約以前から保有していた著作物、および
 汎用的に利用可能なプログラム・ライブラリ・ノウハウに関する権利は乙に留保される。
 乙は甲に対し、本件成果物の利用に必要な範囲で、これらの使用を許諾する」

この条項を入れる交渉は、必ずしてください。

なぜ汎用部分の留保が重要か

自作のユーティリティライブラリを案件Aで使った
  → 全部譲渡の契約だと、その著作権は発注者Aに移る
  → 案件Bで同じライブラリを使うと、Aの権利を侵害する可能性

これが積み重なると、自分の資産を1件ずつ手放していくことになる
交渉の言い方
「成果物の著作権は貴社に譲渡します。ただし、私が以前から保有している
 汎用的なライブラリやユーティリティについては、私に権利を留保させてください。
 貴社には、成果物の利用に必要な範囲でライセンスをお渡しします」

発注者が本当に欲しいのは「自由に使える権利」であって、 「他人が二度と使えないようにすること」ではないことがほとんどです。

職務著作は適用されない

職務著作の要件(法人等が著作者になる場合):
  □ 法人等の発意に基づく
  □ 法人等の業務に従事する者が職務上作成する
  □ 法人等の名義で公表される
  □ 契約・勤務規則に別段の定めが無い

「業務に従事する者」は雇用関係が基本です。 業務委託のフリーランスは通常これに当たらないため、 契約で譲渡しなければ権利は移りません

OSS との関係

業務で OSS を使う時、ライセンスの確認は受注者の責任になることが多いです。

ライセンス注意点
MIT / BSD / Apache-2.0著作権表示・ライセンス文の保持が必要。比較的扱いやすい
GPL / AGPL派生物に同じライセンスが要求される(コピーレフト)。特に AGPL はネットワーク越しの利用でもソース公開義務が生じうる
LGPL動的リンクなら影響が限定される場合がある
独自ライセンス都度確認が必要
納品物に GPL を混ぜると、発注者に義務が発生する

クローズドな製品に GPL のコードを組み込むと、 製品全体のソース公開義務が生じうる場合があります。

□ 依存関係のライセンスを一覧化する(ライセンススキャンツールを使う)
□ 契約書に「第三者の権利を侵害しないことを保証する」条項があるか確認する
□ 保証している場合、その責任は自分が負う

業務委託契約書の読み方賠償の上限が効いてくる場面です。

生成 AI で書いたコード

□ 生成 AI の利用が契約・NDA で禁止されていないか確認する
□ 学習データ由来のコードが混入するリスクを認識する
□ 発注者のコードを AI サービスに送信してよいか(秘密保持の問題。[秘密保持と競業避止](/chapters/nda-and-non-compete/))
秘密情報を AI に投げる前に契約を見る

「業務で知り得た情報を第三者に開示しない」という NDA の下では、 外部の AI サービスへの入力が「開示」に当たると解釈される可能性があります。

近年は契約書に AI 利用に関する条項が入ることが増えています。 明記が無い場合は、事前に発注者に確認してください。

特許・その他の権利

□ 発明が生まれる可能性がある案件では、特許を受ける権利の帰属も条項に入る
□ 商標・意匠が関わる場合も同様
□ ノウハウ(営業秘密)の扱いは秘密保持条項で規定される

ポートフォリオへの掲載

□ 秘密保持契約により、案件名すら出せないことがある
□ 「実績として公表してよいか」を契約時に確認しておく
□ 公表可の範囲(社名まで/業種まで/技術スタックのみ)を明確にする
実績公開の可否は、契約時に聞くのが最も通りやすい

案件が終わってから聞くと、担当者が異動していたり、 判断できる人がいなかったりで「念のため不可」になりがちです。

契約交渉のタイミングで、実績公開の条件も決めておいてください。 次の営業(案件の取り方)に直結します。

受託開発の契約書に「本件成果物に関する一切の権利(著作権法第27条・第28条の権利を含む)は甲に帰属する」とあります。あなたは過去3年かけて作った自作の認証ライブラリを、この案件でも使う予定です。どうすべきでしょうか?

この章のまとめ

  • 著作権は創作した本人に発生する。職務著作は雇用関係が前提で、業務委託には適用されない
  • 譲渡条項には著作権法27条・28条の明記があるのが通常
  • 著作者人格権は譲渡できないため、不行使特約が使われる
  • 汎用ライブラリの留保条項は必ず交渉する。発注者が欲しいのは使う権利であって独占ではない
  • OSS のライセンス確認は受注者の責任になることが多い。GPL/AGPL は特に注意
  • 生成 AI への入力が秘密保持義務に触れる可能性がある。契約を確認する
  • 実績公開の可否は契約時に決める。後から聞くと通りにくい

参考資料

対象リンク
e-Gov 著作権法https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048
文化庁 著作権制度https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/
特許庁https://www.jpo.go.jp/
経済産業省 モデル取引・契約書https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/keiyaku/
Open Source Initiative ライセンス一覧https://opensource.org/licenses
読み終わったら記録しておくと、目次で進み具合が分かります。