フリーランスエンジニアの実務

この本の使い方

この部の 1 / 3 章 ・ 全体で 1 / 53 章 ・ 読了目安 8

この章を読むとできるようになること
  • 自分が今どの段階にいて、どの部から読むべきか判断できる
  • 本書の情報と、国税庁の一次情報の使い分けができる

エンジニアの独立でつまずくのは、技術ではありません。お金と紙の手続きです。

コードは書けるのに、

「開業届っていつまでに出すんだっけ」 「この MacBook、全部経費にしていいの?」 「請求書に何を書けば法的に足りるの?」 「freee に取引を登録したけど、これ本当に合ってる?」

こういうところで止まります。しかも間違えても誰も教えてくれません。 気づくのは、たいてい1年後の確定申告か、数年後の税務調査です。

この本は、その部分だけを埋めるために書かれています。

この本が扱う範囲

個人事業主(フリーランス)として働くエンジニアのための実務書です。

扱うもの
開業・青色申告・健康保険・年金の手続き第1部
簿記の考え方(仕訳・勘定科目・決算書)第2部
freee での日々の記帳第3部
経費・家事按分・減価償却・証憑の保存第4部
消費税とインボイス第5部
所得税と確定申告第6部
契約・著作権・フリーランス新法第7部
単価・案件獲得・回収・税務調査第8部

扱わないものも先に書いておきます。

× 法人(会社)の設立手続きと法人決算
    → 第8部で「いつ検討するか」の判断基準だけ扱います
× 投資・資産運用(NISA、不動産など)
    → 節税制度として関係する範囲(iDeCo・小規模企業共済)だけ扱います
× 特定の税理士・エージェント・サービスの推奨
× 「グレーだけどバレない」方法

最後の1つは特に重要です。この本は説明できる状態を作るための本であって、 見つからない方法を教える本ではありません。理由は第4部で詳しく書きます。

どこから読むか

順番に読む必要はありません。今いる場所から読んでください

今の状況読む順番
独立を迷っている第0部 → 第1部(特に健康保険と年金)
退職が決まった独立までのタイムラインのタイムライン → 第1部
開業した直後第2部 → 第3部(記帳の仕組みを最初に作る)
初めての確定申告が近い第4部 → 第6部 → 第5部
1年やってみて見直したい第5部 → 第8部
契約書を渡されて困っている第7部
最初の1ヶ月で第2部と第3部をやると、1年が変わる

記帳の仕組みは、開業直後に作るのが圧倒的に安いです。

後から1年分をまとめて入力すると、レシートの記憶は消え、口座の同期は 過去分を取り込めないことがあり、按分の根拠も思い出せません。 確定申告が地獄になる人の9割は、記帳を後回しにした人です。

数字と制度の扱い方

この本には金額や税率が出てきます。その多くは毎年変わります。

毎年変わるもの: 国民年金保険料、国民健康保険料の料率、各種特例の期限
数年ごとに変わるもの: 控除額、税率区分、電子申告の要件
最近大きく変わったもの: インボイス制度、電子帳簿保存法、フリーランス新法

そこで、この本の使い方はこうしてください。

  1. 考え方と手順はこの本で理解する
  2. 具体的な金額・期限は、その年の一次情報で確認する
  3. 判断に迷ったら、税務署か税理士に聞く(どちらも無料の窓口があります)
ネットの記事は「何年の話か」を必ず見る

税務の情報は、古い記事が検索上位に残り続けます

「青色申告特別控除は65万円」と書いてある記事が、電子申告要件が加わる前のものかもしれません。 インボイスの2割特例のように、期限が来て消える制度もあります。

記事を読む時は、まず日付を見てください。そして最終的には次の一次情報に当たります。

情報源用途URL
国税庁 タックスアンサー税務の一次情報。まずここhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/
国税庁 確定申告書等作成コーナー申告書の作成と e-Tax 送信https://www.keisan.nta.go.jp/
e-Gov 法令検索法律の条文そのものhttps://laws.e-gov.go.jp/
公正取引委員会 フリーランス法発注者の義務と相談窓口https://www.jftc.go.jp/
日本年金機構国民年金の手続きhttps://www.nenkin.go.jp/

freee を例に使う理由

第3部は freee の画面に沿って書いています。特定のサービスを推奨するためではなく、 具体的な操作まで書かないと実務書として役に立たないからです。

マネーフォワードやよいの利用者でも、やることは同じです。

どのソフトでも共通してやること:
  1. 事業所(事業者)の設定と、開始残高の入力
  2. 口座・カードの連携
  3. 明細から取引を登録する(=仕訳を作る)
  4. 証憑を紐づけて保存する
  5. 決算整理をして、申告書を作る

第2部で簿記の考え方を先に説明するのも、これが理由です。 画面の操作を覚えても、裏で何が起きているか分からないと、ズレた時に直せません。

税理士に頼むかどうか

先に結論を書きます。

1年目は、自分でやってみるのを勧めます。
ただし、次に当てはまるなら最初から相談してください。

□ 売上が1,000万円を超えそう(消費税の判断が絡む)
□ 従業員・専従者を雇う
□ 複数の所得(不動産・株・海外)がある
□ 前年分が未申告、または大きな間違いに気づいた

理由は、自分でやると事業の数字が体に入るからです。 単価交渉も、経費の判断も、法人化の判断も、数字の感覚が無いとできません。

そのうえで、規模が大きくなったら任せればいい。 一度自分でやった人は、税理士に任せてからも中身をチェックできます。

無料で聞ける場所がある
  • 税務署の窓口・電話相談: 手続きや書き方は普通に教えてくれます。「脱税の相談」でなければ、税務署は敵ではありません
  • 青色申告会・商工会: 年会費数千円〜で記帳指導が受けられます
  • 税理士会の無料相談会: 各地で定期的に開かれています
  • 確定申告期の相談会場: 2月〜3月。ただし非常に混みます

この本の読み方の作法

各章には次のものが付いています。

  • この章を読むとできるようになること: 冒頭の目標。読み終えたら自己確認に使ってください
  • Callout: 落とし穴(pitfall)・注意(warning)・コツ(tip)・補足(note)
  • Quiz: 章の終わりの確認問題。実務で実際に迷う場面を出しています
  • この章のまとめ: 見返す用
  • 参考資料: 一次情報へのリンク

独立して3ヶ月。案件は順調ですが、記帳はまだ1件もしていません。「確定申告は来年の3月だから、年末にまとめてやろう」と考えています。この判断の最大の問題は何でしょうか?

この章のまとめ

  • エンジニアの独立でつまずくのは技術ではなく、お金と紙の手続き。 そして間違えても誰も教えてくれない
  • この本は個人事業主として働くエンジニアのための実務書。 法人設立と資産運用は扱わない
  • 今いる状況の章から読んでいい。順番に読む必要はない
  • 考え方と手順は本書で、金額と期限は一次情報で。 税務の情報は毎年変わり、古い記事が検索上位に残り続ける
  • freee を例に使うが、やることはどのソフトでも同じ。 だから第2部で簿記の考え方を先に説明する
  • 1年目は自分でやってみる。数字が体に入ると、単価交渉も法人化の判断もできるようになる

参考資料

対象リンク
国税庁 タックスアンサーhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/
国税庁 個人事業主向けの手引きhttps://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/
e-Gov 法令検索https://laws.e-gov.go.jp/
読み終わったら記録しておくと、目次で進み具合が分かります。