フリーランスエンジニアの実務

源泉徴収と報酬

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この章を読むとできるようになること
  • 自分の報酬が源泉徴収の対象か判定できる
  • 源泉徴収された税額を申告で精算できる

請求書は30万円で出したのに、振り込まれたのは269,370円

引かれた30,630円は、あなたが前払いした所得税です。取られたわけでも、 手数料でもありません。確定申告で精算されます。

ただし、引かれる取引と引かれない取引があります。ここが分かりにくい部分です。

源泉徴収の対象になる報酬

所得税法で列挙された報酬だけが対象です。

対象になる(代表例)税率
原稿料・講演料・デザイン料10.21%(100万円超の部分は20.42%)
技術・技芸の指導、コンサルティング料同上
士業(弁護士・税理士・司法書士等)の報酬同上
翻訳・通訳・脚本・作曲同上
写真・映像制作の報酬同上
対象にならない(代表例)
ソフトウェアの受託開発
準委任によるシステム開発・運用
保守・運用サービス
物品の販売
エンジニアの報酬は、原則として源泉徴収の対象外

一般的な受託開発・SES・準委任の報酬は、源泉徴収の対象として列挙されていません

ただし実務では、

□ 支払者が念のため源泉徴収しているケース
□ 業務内容に「技術指導」「講演」「執筆」が含まれるケース
□ デザイン業務を兼ねているケース

があり、取引先によって扱いが分かれます。 最終的には支払者の判断で処理されるため、支払通知書で確認してください。

計算方法

支払金額が100万円以下の場合
  源泉徴収税額 = 支払金額 × 10.21%

支払金額が100万円を超える場合
  源泉徴収税額 = (支払金額 − 100万円) × 20.42% + 102,100円
例: 報酬 1,500,000円
  (1,500,000 − 1,000,000) × 20.42% + 102,100 = 204,200円

10.21% = 10%(所得税)+ 0.21%(復興特別所得税) です。

消費税の扱い

請求書で報酬と消費税を明確に区分している場合
  → 税抜の報酬額に対して源泉徴収してよい

区分していない場合
  → 税込金額に対して源泉徴収される
報酬30万円 + 消費税3万円
  区分あり: 300,000 × 10.21% = 30,630円
  区分なし: 330,000 × 10.21% = 33,693円   ← 3,063円多く引かれる

最終的には確定申告で精算されますが、その年の手取りは減ります請求書では必ず区分してください請求書・売掛金・入金消込)。

記帳のしかた

請求時
  借方: 売掛金 330,000    貸方: 売上高 300,000
                                仮受消費税 30,000

入金時(源泉徴収 30,630円)
  借方: 普通預金 299,370  貸方: 売掛金 330,000
        仮払税金  30,630
freee では「事業主貸」で処理する方法もある

源泉徴収された所得税は、事業の経費ではなく個人の所得税の前払いです。

そのため、

□ 「仮払税金」などの資産科目で処理する
□ 「事業主貸」で処理する(個人の税金の前払いと考える)

のどちらでも扱えます。会計ソフトの標準の方法に合わせて、毎年統一してください。

いずれの場合も、確定申告書には源泉徴収税額の合計を記載します。

支払調書

支払者が税務署に提出する書類で、あなたに交付する義務はありません

□ 支払調書が届く取引先もあれば、届かない取引先もある
□ 支払調書が無くても確定申告はできる(帳簿と入金額から自分で集計する)
□ 支払調書の金額が自分の帳簿と違うことがある(期ズレ・税込税抜の差)
支払調書を待って申告が遅れるのは本末転倒

「支払調書が届かないから申告できない」——そんなことはありません

正しい売上と源泉徴収税額は、自分の帳簿にあります。 支払調書はあくまで参考資料です。届かない場合は、 入金明細と請求書の控えから集計してください。

支払調書と帳簿がずれる理由

□ 支払調書は「支払った金額」ベース(=入金日基準)
   帳簿は「発生した金額」ベース(=役務提供日基準)
   → 12月分の報酬が翌年1月払いなら、年をまたいでズレる

□ 税込・税抜の記載方法が支払者によって違う

帳簿が正しければ、ズレていても問題ありません。

確定申告での精算

所得税額                    386,448
  − 源泉徴収税額            −306,300
────────────────────────────────
納付額                       80,148

(源泉徴収税額のほうが多ければ、差額が還付される)
源泉徴収されている人は還付になりやすい

源泉徴収は経費や所得控除を考慮せずに、支払額に一律の率で課されます。

経費が多い、所得控除が多い → 実際の税額は源泉徴収額より小さくなる → 還付

デザイン・執筆・講演の比率が高いフリーランスは、 毎年還付になることも珍しくありません。

自分が支払う側になったら

外注先への支払いが源泉徴収の対象なら、あなたに徴収と納付の義務が生じます。

□ 原則として、支払った月の翌月10日までに納付する
□ 「給与支払事務所等の開設届出書」の提出が必要な場合がある
□ 納期の特例(年2回まとめて納付)の申請ができる場合がある
源泉徴収を怠ると、自分が払うことになる

源泉徴収の義務があるのに徴収しなかった場合、 支払者(あなた)が納付義務を負います。さらに不納付加算税・延滞税が加わります。

デザイナー・ライターに外注する時は、源泉徴収の要否を必ず確認してください。

受託開発の報酬(月80万円)と、技術記事の執筆料(月5万円)を別々の取引先から受け取っています。開発報酬からは何も引かれず、執筆料からは5,105円が引かれて44,895円が振り込まれました。この状況をどう理解すべきでしょうか?

この章のまとめ

  • 源泉徴収は所得税の前払い。手数料でも罰でもない
  • 対象は法律で列挙された報酬(原稿・講演・デザイン・士業など)。 一般的な受託開発は対象外
  • 税率は10.21%(100万円超の部分は20.42%)
  • 請求書で報酬と消費税を区分すれば、税抜額に対する源泉徴収になる
  • 支払調書は交付義務がない。無くても帳簿から自分で集計して申告できる
  • 支払調書と帳簿は入金日基準と発生日基準の違いでズレる。帳簿が正しければよい
  • 源泉徴収されている人は還付になりやすい
  • 自分が支払う側になったら、源泉徴収の要否を必ず確認する

参考資料

対象リンク
国税庁 No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2792.htm
国税庁 No.2795 原稿料や講演料等https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2795.htm
国税庁 報酬・料金等の源泉徴収事務https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/
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