フリーランスエンジニアの実務

2割特例・簡易課税・本則課税

この部の 3 / 4 章 ・ 全体で 32 / 53 章 ・ 読了目安 22

この章を読むとできるようになること
  • 3つの計算方法で納税額がどう変わるか試算できる
  • 届出の期限と、選択を縛られる期間を把握できる

消費税の納税額の計算方法は3つあります。同じ売上でも、納税額が数十万円変わります

本則課税  … 預かった消費税 − 実際に払った消費税
簡易課税  … 預かった消費税 − (預かった消費税 × みなし仕入率)
2割特例   … 預かった消費税 × 20%

エンジニアは経費が少ない業種なので、この選択の影響が特に大きくなります。

3つの計算方法

本則課税(原則課税)

納付額 = 預かった消費税 − 支払った消費税(適格請求書があるもの)

実額計算です。経費が多い事業ほど有利になります。

簡易課税

納付額 = 預かった消費税 − 預かった消費税 × みなし仕入率

実際の仕入れを計算せず、業種ごとの「みなし仕入率」 で計算します。

区分業種みなし仕入率
第1種卸売業90%
第2種小売業80%
第3種製造業・建設業70%
第4種その他(飲食業など)60%
第5種サービス業・情報通信業50%
第6種不動産業40%

受託開発・準委任は第5種(50%)になるのが一般的です。

条件: 基準期間の課税売上高が 5,000万円以下
      かつ「消費税簡易課税制度選択届出書」を、適用したい課税期間の開始日の前日までに提出

2割特例

インボイス制度をきっかけに課税事業者になった人向けの時限的な特例です。

納付額 = 預かった消費税 × 20%
2割特例には期限がある

2割特例は、令和8年(2026年)9月30日を含む課税期間までが対象とされています。 個人事業主(暦年課税)の場合、2026年分の申告が最後になります。

その先は、本則課税か簡易課税を選ぶことになります。 延長・改正の可能性があるため、必ず最新情報を確認してください

2割特例の条件:
  □ インボイス登録がなければ免税事業者だった人
  □ 基準期間の課税売上高が1,000万円以下
  □ 事前の届出は不要(申告時に選択できる)

数字で比べる

売上 800万円(税抜)、預かった消費税 80万円
経費のうち課税仕入れ 150万円、支払った消費税 15万円
方法計算納付額
2割特例80万 × 20%16万円
簡易課税(第5種)80万 − 80万 × 50%40万円
本則課税80万 − 15万65万円

エンジニアは経費率が低いため、本則課税が最も不利になりがちです。

経費が多い年は本則課税が有利になることもある
大型の設備投資をした年(例: 200万円の機材を購入)
  本則課税 … 80万 − 35万 = 45万円
  簡易課税 … 40万円(変わらない)

高額な設備投資や、事務所の内装工事をする年は、 本則課税のほうが有利になることがあります。還付になる場合もあります。

ただし、簡易課税を選択していると2年間は変更できません

選択の順序

1. 2割特例が使えるか?
     使える → まずこれを検討(届出不要、申告時に選択可能)
2. 使えない、または期限が切れた場合
     経費が少ない(エンジニアの典型)→ 簡易課税
     大型の設備投資がある年がある → 本則課税と比較
3. 簡易課税を選ぶなら、届出の期限に注意

届出の期限と縛り

制度届出期限縛り
2割特例不要申告時に選択なし(毎年選び直せる)
簡易課税必要適用したい課税期間の開始日の前日まで2年間継続適用
本則課税(簡易課税をやめる届出が必要)同上
簡易課税の届出は「前年末まで」

2027年分から簡易課税を使いたいなら、2026年12月31日までに届出が必要です。

「申告の時に選べばいい」——選べません。 2割特例だけが申告時の選択を認められています。

年末にこの判断をする習慣を持ってください(月次ルーティン)。

事業を廃止・縮小する場合

売上が1,000万円を下回っても、インボイス登録をしている限り課税事業者です。 免税に戻るには、登録の取消しの届出が必要です(インボイス制度とフリーランス)。

税込経理と税抜経理の選択

課税方式実務上の経理方式
免税事業者税込経理のみ
2割特例・簡易課税税込経理が多い(納付額は売上の税額から計算するため)
本則課税税抜経理が扱いやすい(仕入税額を集計するため)

税込経理の場合、納付した消費税は租税公課として経費になります。

2026年からインボイス登録をして課税事業者になりました。年間の課税売上は900万円(税抜)、課税仕入れは年150万円程度で、大きな設備投資の予定はありません。2027年以降の消費税の計算方法をどう決めるべきでしょうか?

この章のまとめ

  • 計算方法は3つ。本則課税・簡易課税・2割特例
  • エンジニアは経費率が低いため、本則課税が最も不利になりやすい
  • 簡易課税のサービス業は第5種・みなし仕入率50%
  • 2割特例は届出不要・毎年選び直せるが、適用期間に期限がある
  • 簡易課税の届出は、適用したい年の前年12月31日まで。申告時には選べない
  • 簡易課税を選ぶと2年間は変更できない
  • 大型の設備投資をする年は本則課税が有利になることがある(還付の可能性も)
  • 年末に「来年どの方式にするか」を判断する習慣を持つ

参考資料

対象リンク
国税庁 No.6505 簡易課税制度https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6505.htm
国税庁 2割特例(インボイス発行事業者の負担軽減措置)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice.htm
国税庁 消費税簡易課税制度選択届出手続https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shohi/annai/9576_2.htm
読み終わったら記録しておくと、目次で進み具合が分かります。