フリーランスエンジニアの実務

保険・信用・借入

この部の 4 / 7 章 ・ 全体で 50 / 53 章 ・ 読了目安 18

この章を読むとできるようになること
  • 事業上のリスクに対する保険を選べる
  • 独立後の与信の下がり方に備えられる

フリーランスは、自分が止まると事業も止まります。 そして事故が起きた時、賠償するのは個人の財産です(個人事業主とは何か)。

この章は、その2つのリスクへの備えと、独立後に下がる与信の話です。

事業のリスクと備え

リスク備え
納品物の不具合で損害を与えた賠償責任保険、契約書の上限条項(業務委託契約書の読み方
情報漏えい・個人情報の流出賠償責任保険(情報漏えい特約)、予防策(秘密保持と競業避止
病気・けがで働けない所得補償保険・就業不能保険、現金
業務中のけが労災保険の特別加入
取引先の倒産・未払い与信管理、着手金、分散(請求から回収まで
廃業・引退小規模企業共済年金と、自分で作るセーフティネット

賠償責任保険

エンジニア向けの補償は、次のような事故を対象にします。

□ 納品したシステムの不具合により、取引先に損害が発生した
□ 業務上の過失によりデータを消失させた
□ 個人情報を漏えいさせた
□ 著作権侵害を指摘された([知的財産・著作権・OSS](/chapters/ip-and-copyright/))
□ 業務中に他人の物を壊した・けがをさせた
加入経路
□ フリーランス向け団体・協会の団体保険(比較的安価)
□ 損害保険会社の IT 事業者向け賠償責任保険
□ エージェントが提供する福利厚生パッケージ

保険料は経費(損害保険料) になります。 補償額・免責金額・対象となる業務範囲を必ず確認してください。

保険は契約の上限条項の代わりにならない
契約に賠償上限がある + 保険がある → 二重の防御
契約に上限が無い + 保険だけ      → 保険の補償額を超えた分は自己負担

まず契約で上限を切る。保険はその補完です(業務委託契約書の読み方)。

働けなくなった時

会社員と違い、傷病手当金がありません健康保険をどうするか)。

手段内容
現金(生活費6ヶ月分)最初で最強の備え
所得補償保険・就業不能保険働けない期間の収入を補う。免責期間・支払期間を確認
小規模企業共済の貸付掛金の範囲内で低利の貸付を受けられる
障害年金国民年金は1級・2級のみ(年金と、自分で作るセーフティネット
確認するポイント:
  □ 免責期間(何日働けなければ支払われるか。60日・180日など)
  □ 支払期間(最長いつまで)
  □ 精神疾患が対象になるか(対象外の商品も多い)
  □ 保険料は経費にならない(所得控除の対象になる場合がある)

労災保険の特別加入

労災は本来、労働者のための制度ですが、 フリーランスも特別加入できる枠組みがあります。

□ 特別加入団体を通じて加入する
□ 給付基礎日額を選び、それに応じた保険料を払う
□ 業務中・通勤中のけが、病気が対象

常駐先での事故や、機材の運搬中のけがなど、 現場に出る仕事があるなら検討する価値があります。

独立後の与信

独立直後がもっとも審査に通りにくい時期です(独立する前に確かめること)。

対象見られるもの
クレジットカード勤務先・勤続年数・年収の安定性
住宅ローン確定申告2〜3期分の所得、事業の継続性
賃貸契約収入証明、保証会社の審査
自動車ローン同上
事業融資決算書(青色申告決算書)、資金使途、返済計画
節税と与信はトレードオフ
経費を最大化して所得を圧縮 → 税金は減る
                             → 所得証明の金額も下がる
                             → 住宅ローンの借入可能額が下がる

住宅購入を考えているなら、その2〜3年前から所得を意識的に残すという 判断もあります。「税金を払うのは損」と単純に考えないでください。

事業融資

□ 日本政策金融公庫(新規開業・事業資金。個人事業主でも借りやすい)
□ 信用保証協会の保証付き融資(金融機関経由)
□ 制度融資(自治体)
求められるもの:
  □ 確定申告書の控え([確定申告のやり方](/chapters/filing-with-freee/)の受信通知とセット)
  □ 事業計画・資金使途
  □ 通帳の入出金履歴
  □ 納税証明書(滞納があると通らない)
借りる必要が無くても、借りられる状態を作る

借入は「困ってから」では通りません。業績が良い時ほど通ります

□ 帳簿をきちんと付ける(第2部)
□ 納税を滞納しない([納税カレンダーと資金繰り](/chapters/tax-calendar/))
□ 事業用口座に入出金の実績を作る([屋号・事業用口座・事業用カード](/chapters/business-bank-account/))

これらは全部、この本でやってきたことです。 記帳は税務署のためだけの作業ではありません。

補助金・助成金

□ 小規模事業者持続化補助金(販路開拓)
□ IT 導入補助金(ツール導入)
□ 各自治体の創業支援
注意点:
  □ 原則として後払い(先に自分で払う必要がある)
  □ 申請と報告の事務負担が大きい
  □ 補助金は「収入」になる(雑収入。圧縮記帳などの論点もある)

備えの優先順位

1. 生活費6ヶ月分の現金
2. 契約書の賠償上限([業務委託契約書の読み方](/chapters/reading-contracts/))
3. 賠償責任保険
4. 小規模企業共済(廃業・引退の備え + 節税 + 貸付枠)
5. 所得補償保険(扶養家族がいるなら優先度が上がる)
6. 労災の特別加入(現場に出るなら)

常駐先のシステム改修中に設定を誤り、本番データの一部を消失させました。復旧作業と業務停止により、取引先に数百万円規模の損害が出る可能性があります。契約書には賠償の上限条項がありません。最初にすべきことは何でしょうか?

この章のまとめ

  • フリーランスのリスクは賠償働けなくなることの2つが軸
  • 賠償責任保険は経費になる。補償額・免責・対象業務を確認する
  • 保険は契約の上限条項の代わりにならない。まず契約で上限を切る
  • 傷病手当金が無い分、現金と所得補償保険で備える。免責期間と精神疾患の扱いを確認
  • 現場に出る仕事があるなら労災の特別加入を検討する
  • 独立直後が最も与信が低い。カード・ローンは在職中に
  • 節税と与信はトレードオフ。住宅購入を考えるなら所得を残す判断もある
  • 融資は困ってからでは通らない。帳簿・納税・入出金の実績が備えになる

参考資料

対象リンク
厚生労働省 労災保険の特別加入https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/hoken/
中小機構 小規模企業共済https://www.smrj.go.jp/kyosai/skyosai/
日本政策金融公庫https://www.jfc.go.jp/
中小企業庁 補助金・助成金https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/
フリーランス・トラブル110番https://freelance110.mhlw.go.jp/
読み終わったら記録しておくと、目次で進み具合が分かります。