健康保険をどうするか
この部の 5 / 6 章 ・ 全体で 8 / 53 章 ・ 読了目安 20 分
- 独立時に選べる健康保険の選択肢を挙げられる
- 自分の場合にどれが安いか試算できる
- 切り替えの期限を把握できる
独立して最初に驚くのが、健康保険料の請求書です。
会社員時代、給与明細に書かれていた健康保険料は半分でした。残りは会社が払っていました。 独立するとその全額が自分に来ます。さらに国民健康保険は前年の所得で決まるため、 独立1年目は「会社員時代の高い所得を基準にした保険料」が来ます。
この章では、選択肢と比べ方を扱います。選べるのは退職直後だけなので、先に読んでください。
選択肢は4つ
| 選択肢 | 条件 | 期限 |
|---|---|---|
| 国民健康保険(国保) | 誰でも入れる。市区町村が運営 | 退職後14日以内 |
| 任意継続 | 退職前に健康保険の被保険者期間が継続2ヶ月以上 | 退職翌日から20日以内(厳守) |
| 家族の扶養に入る | 収入見込みが基準以下 | すみやかに |
| 国保組合 | 業種ごとの組合。加入資格がある場合 | 組合による |
20日を1日でも過ぎると、任意継続は選べなくなります。 理由が「知らなかった」でも救済はありません。
退職が決まったら、会社の担当者に任意継続の保険料額を必ず聞いてください。 その金額と国保の試算額を比べるのが、この判断の全てです。
国民健康保険の保険料はどう決まるか
自治体ごとに料率が違いますが、構造は共通です。
保険料 = 所得割(前年の所得に応じた額)
+ 均等割(加入者1人あたりの定額)
+ 平等割(世帯あたりの定額。無い自治体もある)
※ 医療分・後期高齢者支援金分・介護分(40歳以上)の3階建て
※ 年間の上限額がある(年100万円前後。毎年改定)
重要なのは前年の所得で決まることです。
| 年 | 保険料の算定基礎 |
|---|---|
| 独立1年目 | 前年の給与所得(会社員時代の高い所得) |
| 独立2年目 | 1年目の事業所得 |
| 収入が落ちた年 | 前年の高い所得 |
多くの市区町村が、保険料の計算方法とシミュレーションを公開しています。 「〇〇市 国民健康保険料 計算」で検索してください。
必要なのは前年の所得金額(源泉徴収票の給与所得控除後の金額、または確定申告書の所得金額)です。 任意継続の金額と並べて比べます。
任意継続が有利になる場合
任意継続の保険料は、退職時の標準報酬月額をもとに計算されます。 ただし上限があり、協会けんぽの場合は標準報酬月額30万円が上限です(健保組合は組合ごとに異なる)。
つまり:
高収入だった人 → 上限で頭打ちになるため、任意継続が安くなりやすい
扶養家族が多い人 → 任意継続は扶養家族の保険料がかからないため有利
収入が低かった人 → 国保のほうが安いことが多い
| 観点 | 国民健康保険 | 任意継続 |
|---|---|---|
| 保険料の基準 | 前年の所得 | 退職時の標準報酬月額(上限あり) |
| 扶養家族 | 人数分の均等割がかかる | 扶養は保険料がかからない |
| 期間 | 制限なし | 最長2年 |
| 保険料の変動 | 毎年、前年所得で変わる | 原則として2年間ほぼ一定 |
| 給付内容 | 傷病手当金なし | 退職後は原則なし |
任意継続は最長2年です。よくある形はこうなります。
1年目: 任意継続(前年の給与所得が高いので国保が高い)
2年目: 国保へ切替(前年=独立1年目の所得が下がっていれば国保が安い)
以前は任意継続をやめるには保険料を滞納する方法しかありませんでしたが、 現在は本人の申出による資格喪失が可能です。切り替えのタイミングは組合に確認してください。
家族の扶養に入る
配偶者や親が会社員なら、扶養に入れる可能性があります。保険料はゼロです。
一般的な条件(健保組合により異なる):
□ 年間収入の見込みが130万円未満(60歳以上や障害者は180万円未満)
□ 被保険者の収入の1/2未満
ここが厄介です。事業所得者の収入判定は、
- 売上から必要経費を引いた額で見る組合
- 売上そのもので見る組合
- 経費のうち一部(減価償却など)は引けないとする組合
と分かれます。必ず加入先の健保組合の基準を確認してください。 「開業届を出した時点で扶養から外す」という運用の組合もあります。
国保組合
業種ごとの国民健康保険組合があります。所得に関係なく保険料が定額のものが多く、 高所得者ほど有利になります。
エンジニアの場合、加入できるかどうかは実際の業務内容と、加盟団体の資格要件次第です。 Web デザインや映像制作を業務として行っているなら、文芸美術国民健康保険組合のような 選択肢が視野に入ることがあります。
確認すること:
□ 自分の業務が組合の定める業種に当たるか
□ 加盟団体への入会が必要か(年会費がかかる)
□ 家族の保険料はどうなるか
「加入できることになっている」と紹介する記事は多いですが、最終判断は組合です。 必ず組合に直接確認してください。
保険料は全額が所得控除になる
支払った健康保険料・国民年金保険料は、社会保険料控除として全額が所得から引けます。
□ 国民健康保険料・任意継続の保険料
□ 国民年金保険料(家族の分を払った場合も、自分の控除にできる)
□ 国民年金基金・付加保険料
年末に控除証明書が届くもの(国民年金)と、届かないもの(国保は自治体による)があります。 支払額が分かる資料を残しておいてください(所得控除カタログ)。
傷病手当金が無いという現実
会社員の健康保険には、病気で働けない時に給与の約2/3が支給される傷病手当金があります。
国民健康保険には、これがありません(任意継続でも退職後の発病は原則対象外)。
つまりフリーランスは:
病気で3ヶ月働けない = 収入ゼロが3ヶ月
その間も、国民年金・国保・家賃・ソフトの年額は出ていく
対策は次章(年金とセーフティネット)で扱います。生活費6ヶ月分の現金が最初の防御です。
年収800万円で退職し、フリーランスになります。独身、扶養家族なし。会社の担当者に聞くと任意継続は月額約3.5万円。自治体で試算した国保は月額約6万円でした。どう判断するのが妥当でしょうか?
この章のまとめ
- 選択肢は国保・任意継続・扶養・国保組合の4つ。任意継続は退職から20日以内
- 国保の保険料は前年の所得で決まる。だから独立1年目は会社員時代の所得で高くなる
- 任意継続は標準報酬月額に上限があり、高所得者・扶養家族が多い人ほど有利
- よくある形は「1年目は任意継続、2年目に国保へ切替」。毎年比較する
- 扶養に入れるかは健保組合ごとに判定基準が違う。必ず直接確認する
- 国保組合は定額のことが多いが、加入資格の最終判断は組合
- 保険料は全額が社会保険料控除。支払額の記録を残す
- 国保に傷病手当金は無い。働けない期間の備えは自分で用意する
参考資料
| 対象 | リンク |
|---|---|
| 全国健康保険協会(協会けんぽ) | https://www.kyoukaikenpo.or.jp/ |
| 厚生労働省 国民健康保険 | https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/index.html |
| 国税庁 No.1130 社会保険料控除 | https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1130.htm |
| 文芸美術国民健康保険組合 | https://www.bunbi.com/ |