フリーランスエンジニアの実務

経費になるもの・ならないもの

この部の 2 / 7 章 ・ 全体で 24 / 53 章 ・ 読了目安 22

この章を読むとできるようになること
  • 判断に迷う支出を、説明責任の観点で仕分けできる
  • 明確に経費にならないものを把握できる

この章は実例集です。エンジニアが実際に迷う支出を、 「経費になる/ならない/条件次第」の3つに仕分けます。

ただし先に大原則を1つ。

最終的に判断するのは、この本でもネットの記事でもなく、あなたの説明です。
同じ支出でも、事業の内容と使い方によって結論が変わります。

ほぼ確実に経費になるもの

支出科目備考
PC・モニタ・キーボード・周辺機器消耗品費 / 工具器具備品10万円で分岐(10万・20万・30万の壁
開発ツール・IDE・SaaS の月額通信費 / 支払手数料
クラウド利用料(AWS・GCP など)通信費
ドメイン・SSL 証明書・レンタルサーバー通信費
技術書・技術系の有料記事新聞図書費
技術カンファレンス・勉強会の参加費研修費懇親会費は交際費になることも
オンライン講座(業務に直結するもの)研修費
コワーキングスペース・レンタルオフィス地代家賃
事業用の名刺・Web サイト制作費広告宣伝費
取引先への交通費旅費交通費
外注したエンジニアへの報酬外注費給与との区別に注意(勘定科目の地図
事業用の損害賠償責任保険損害保険料
会計ソフトの利用料支払手数料
振込手数料・決済手数料支払手数料
個人事業税・印紙税租税公課所得税・住民税は不可
取引先との打ち合わせ・会食会議費 / 接待交際費相手と目的の記録が必須

ほぼ確実に経費にならないもの

支出理由
家族との食事・私的な飲食事業と無関係
生活費(食費・日用品・私服)同上
所得税・住民税・加算税・延滞税個人の税金・制裁金
交通違反の反則金法律で否定されている
健康診断・人間ドック(個人事業主本人)本人の健康管理は事業の費用ではない
ジム・エステ・散髪原則として私的支出
自分への給料個人事業主は自分に給与を払えない
生命保険料・医療保険料経費ではないが生命保険料控除の対象
国民年金・国民健康保険料経費ではないが社会保険料控除の対象
スーツ・革靴原則として私的支出(後述)
従業員がいれば経費になるものがある

健康診断・福利厚生費・慶弔見舞金は、従業員がいる場合に福利厚生費として認められます。 しかし事業主本人の分は対象外です。

「法人化すると経費の範囲が広がる」と言われる理由の1つがこれです(法人化を考えるタイミング)。

条件次第のもの(グレーゾーン)

ここが本題です。判断の道具を先に置きます。

□ 事業でしか使わないか → 全額経費
□ 事業と私生活の両方で使うか → 按分して経費(根拠が必要)
□ 事業で使うと言えるが、私的な性格が強いか → 計上しない判断も含めて検討

自宅の家賃・電気・水道

○ 按分すれば経費([家事按分の考え方](/chapters/home-office-ratio/))
× 全額を経費にするのは、事業専用スペースが完全に分離されている場合を除いて困難
× 水道代は、業務との関連を説明しにくいことが多い

スマホ・自宅のネット回線

○ 事業使用割合で按分(通話明細・使用時間などの根拠)
○ 事業専用の回線・番号を持つなら全額

1人での飲食・カフェ代

△ カフェを作業場所として使った場合の飲食代
   → 「打ち合わせ」なら会議費として説明できる
   → 1人での作業なら、判断が分かれる。1回数百円でも、頻度が高いと目立つ
   
× 単なる昼食代は経費にならない(誰でも食事は必要なため)
1人ランチが経費にならない理由

基準は「事業をしていなくても発生する支出か」です。

食事は、フリーランスでなくても必要です。だから原則として経費になりません。 一方、取引先との会食は、事業をしていなければ発生しません。だから経費になります。

この基準は、多くのグレーゾーンで使えます。

書籍

○ 技術書・業界誌・事業に関係する専門書
△ ビジネス書・自己啓発書(事業との関連を説明できるか)
× 小説・趣味の雑誌

服・時計・カバン

× スーツ・革靴(私生活でも着られるため、原則不可)
○ 屋号入りのユニフォーム・作業着・イベント用のオリジナル T シャツ
△ 撮影・登壇のために購入し、その用途でしか使わないもの(記録が必要)

引っ越し費用

△ 事業のために転居した場合(事務所機能の移転)は按分の余地がある
× 単なる住み替えは私的支出

車・ガソリン代

○ 事業使用割合で按分(走行距離・使用日数の記録が根拠)
× 通勤や私用がほとんどなら困難
※ 記録(運行記録)を残しているかで結論が変わる

ジム・健康関連

× 個人事業主本人の健康維持は、原則として私的支出
(「体調管理は仕事のうち」は、税務上の理屈としては通りません)

家族への支払い

× 生計を一にする家族への給与・家賃(原則不可)
○ 青色事業専従者給与の届出をしたうえでの適正額の給与
生計を一にする親族への支払いは、原則として経費にならない

同居の親から自宅の一部を借りて「家賃」を払っても、経費になりません (所得税法の規定により、生計を一にする親族への対価は必要経費に算入できません)。

ただし、その親族が支払った固定資産税や減価償却費など、 実際に生じている費用を経費にできる場合があります。判断が難しいので、 金額が大きいなら税理士か税務署に確認してください。

グレーを扱う3つの態度

1. 全額計上する    … 事業性を明確に説明でき、証拠もある
2. 按分して計上する … 私的利用が混ざるが、割合の根拠を出せる
3. 計上しない      … 説明が苦しい/金額が小さく、リスクに見合わない
小さな支出のために、大きな信用を失わない

月1,000円のグレー支出を12ヶ月計上して、経費は12,000円、節税は3,600円。

これが調査で否認されると、その周辺の支出もまとめて疑われます。 「この人の帳簿は緩い」と判断されると、調査の範囲が広がります。

金額が小さいものほど、無理をしない——これが結果的にいちばん安く済みます。

迷った時の実務手順

1. その支出が「事業をしていなくても発生するか」を考える
     発生する → 原則として経費にならない(按分の余地を探す)
     発生しない → 経費にできる可能性が高い

2. 事業での使用割合を見積もれるか考える
     見積もれる → 按分して計上し、根拠をメモに残す
     見積もれない → 計上しない

3. 金額が大きい(年10万円以上など)なら、税務署か税理士に確認する

週2回、近所のカフェで4〜5時間コードを書いています。1回あたりコーヒー代が600円、年間で約6万円です。自宅にも作業環境はあります。この支出をどう扱うのが妥当でしょうか?

この章のまとめ

  • 判断の中心は「事業をしていなくても発生する支出か
  • 明確に経費になるもの(機材・SaaS・技術書・研修・外注・打ち合わせ)は迷わず計上する
  • 明確にならないもの(生活費・所得税・本人の健康診断・スーツ)は諦める
  • グレーへの態度は3つ。全額計上・按分計上・計上しない
  • 家族への支払いは原則経費にならない(青色事業専従者給与の届出がある場合を除く)
  • 金額が小さいものほど無理をしない。帳簿全体の信頼を守るほうが得
  • 判断に迷い、金額が大きいなら税務署か税理士に確認する

参考資料

対象リンク
国税庁 No.2210 必要経費の知識https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm
国税庁 No.2210 家事関連費https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm
国税庁 No.1120 医療費控除https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm
国税庁 生計を一にする親族に支払う対価https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm
読み終わったら記録しておくと、目次で進み具合が分かります。