経費とは何か
この部の 1 / 7 章 ・ 全体で 23 / 53 章 ・ 読了目安 18 分
- 経費として認められる条件を自分の言葉で説明できる
- 経費を増やすことが常に得ではない理由を説明できる
「これ、経費で落とせますか?」
この質問には、法律上のたった1つの基準があります。
所得税法が定める必要経費(要約)
1. 総収入金額を得るために直接要した費用
2. その年に生じた販売費・一般管理費その他業務について生じた費用
つまり、その支出が、その年の売上を得るために必要だったか。これだけです。
3つの問い
実務では、次の3つに答えられるかで判断します。
1. 事業との関連性はあるか … 何のための支出か説明できるか
2. 必要性はあるか … その事業に本当に要るものか
3. 金額は妥当か … 事業の規模に照らして不自然でないか
グレーゾーンの判断で迷ったら、この問いに置き換えてください。
「3年後、面識のない調査官に、この支出の目的を説明できるか」
説明できるなら計上する。説明に詰まるなら、按分するか、諦める。 この基準は、どんな細かいルールより実用的です。
経費を増やしても、得はしない
最も誤解されている点です。
30万円の機材を買った場合(所得税・住民税あわせて税率30%と仮定)
税金の減少額 30万円 × 30% = 9万円
手元から出た額 30万円
──────────────────────────
正味の減少 21万円
現金は21万円減っています。「経費で落とせば実質タダ」ではありません。
経費にすべき: 事業に必要だから買うもの
経費にすべきでない: 節税のために買うもの
所得を圧縮しても、住民税・国民健康保険料・翌年の資金は残ります。 そして手元の現金は確実に減ります。
所得を減らす → 融資・住宅ローンの審査に不利
現金を使い切る → 翌年の納税資金が無い
税金を払うのは、稼いだ証拠です。 減らすべきは無駄な支出であって、利益ではありません。
家事関連費という考え方
自宅で働くフリーランスの支出は、事業と私生活が混ざります。
家賃・電気代・通信費・車・スマホ …… これらを「家事関連費」といいます
原則として、家事関連費は経費になりません。ただし例外があります。
業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を
明らかに区分できる場合に限り、その部分を経費にできる
これが家事按分です(家事按分の考え方)。ポイントは「明らかに区分できる」の部分で、 つまり割合の根拠を示せることが条件になります。
証拠がないものは経費にならない
□ レシート・領収書
□ 請求書・契約書
□ クレジットカードの明細(補助的な証拠)
□ 支出の目的が分かる記録(メモ・カレンダー・メール)
レシートは「支払った事実」の証拠でしかありません。 「事業に必要だった」ことの証拠にはなりません。
カフェのレシート 1,200円
→ 誰と、何のために?(打ち合わせなら会議費、1人の作業なら判断が分かれる)
書店のレシート 3,800円
→ 何の本?(技術書なら新聞図書費、小説なら私的支出)
その場で1行メモを残す——これが最も安く、最も効く自衛策です(取引を登録する)。
領収書が無い場合
□ 電車・バス → 出金伝票または交通費精算の記録(日付・区間・目的・金額)
□ 慶弔費 → 招待状・会葬礼状 + 出金伝票
□ 自販機・割り勘 → 出金伝票 + メモ
出金伝票は自分で書くものなので、証拠力は弱いです。 金額が大きいものは、必ず領収書をもらってください。
経費にならない代表例
| 支出 | 理由 |
|---|---|
| 所得税・住民税 | 個人の税金。事業の費用ではない(事業主貸) |
| 国民年金・国民健康保険料 | 経費ではないが社会保険料控除の対象(所得控除カタログ) |
| 自分への給料 | 個人事業主は自分に給与を払えない(事業主貸) |
| 生活費・私的な飲食 | 事業に関係ない |
| 罰金・交通違反の反則金 | 法律で経費算入が否定されている |
| 借入金の元本返済 | 負債の減少であって費用ではない(利息は経費) |
| 同居家族への給与 | 原則不可(青色事業専従者給与の届出があれば可) |
経費 … 事業の利益を計算する時に売上から引くもの
所得控除 … 所得が確定した後、課税所得を計算する時に引くもの
国民年金・国保・生命保険料・医療費・iDeCo は所得控除です。 経費にはできませんが、税金は同じように減ります(所得控除カタログ)。
「経費にならない=税金が安くならない」ではありません。
経費率の目安
「経費はどのくらいが普通か」という質問がありますが、目安はありません。
準委任中心・自宅作業のエンジニア → 経費率 10〜20% のことが多い
機材・外注・オフィスがある → もっと高くなる
重要なのは平均に合わせることではなく、中身を説明できることです。 経費率が高くても、根拠があれば問題ありません。逆に平均並みでも、 中身が説明できなければ指摘されます。
年末に所得が予想より多く出ることが分かりました。税率を考えると所得税・住民税で約30%です。手元資金は150万円。来年使う予定の機材を今年のうちに100万円分買えば節税になると考えています。この判断をどう評価すべきでしょうか?
この章のまとめ
- 必要経費の基準は「その年の売上を得るために必要だったか」の一点
- 実務の判断は3つの問い。関連性・必要性・金額の妥当性
- 迷ったら「3年後、面識のない調査官に説明できるか」で判断する
- 経費を増やしても得はしない。戻るのは税率分だけで、残りは自分の負担
- 家事関連費は原則経費にならないが、明らかに区分できる部分は按分して計上できる
- レシートは「払った証拠」であって「必要だった証拠」ではない。目的のメモを残す
- 経費と所得控除は別物。国民年金・国保・生命保険は経費にならないが所得控除になる
- 経費率に目安はない。重要なのは中身を説明できること
参考資料
| 対象 | リンク |
|---|---|
| 国税庁 No.2210 必要経費の知識 | https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm |
| 国税庁 No.2215 家事関連費等 | https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm |
| 所得税法 第37条(必要経費) | https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033 |