フリーランスエンジニアの実務

所得税の全体像

この部の 1 / 7 章 ・ 全体で 34 / 53 章 ・ 読了目安 22

この章を読むとできるようになること
  • 売上 → 所得 → 課税所得 → 税額の流れを説明できる
  • 累進税率の意味を正しく理解できる

確定申告の作業は、この1本の流れをたどるだけです。

売上(収入)
  − 必要経費
  = 事業所得(青色申告特別控除前)
  − 青色申告特別控除
  = 事業所得
  ± 他の所得(給与・雑所得など)
  = 合計所得金額
  − 所得控除(基礎・社会保険料・医療費など)
  = 課税所得金額
  × 税率 − 控除額
  = 所得税額
  − 税額控除(住宅ローン控除など)
  = 基準所得税額
  + 復興特別所得税(基準所得税額 × 2.1%)
  − 源泉徴収税額・予定納税額
  = 納付する額(マイナスなら還付)

この章では、各段階で何が起きているかを押さえます。

所得は10種類ある

所得税は、所得の種類ごとに計算方法が違います

所得フリーランスエンジニアとの関係
事業所得本業。これが中心
雑所得副業的な収入、事業と認められない収入(個人事業主とは何か
給与所得独立した年の会社員時代の給与、アルバイト
譲渡所得事業用資産の売却(減価償却)、株式・不動産の売却
一時所得満期保険金、懸賞金
利子・配当所得預金利息、株の配当
不動産所得賃貸経営
退職所得退職金(分離課税)
山林所得

独立した年は、事業所得と給与所得の両方を申告することになります。

税率は超過累進

課税所得金額税率控除額
195万円以下5%0円
195万円超 330万円以下10%97,500円
330万円超 695万円以下20%427,500円
695万円超 900万円以下23%636,000円
900万円超 1,800万円以下33%1,536,000円
1,800万円超 4,000万円以下40%2,796,000円
4,000万円超45%4,796,000円
所得税額 = 課税所得金額 × 税率 − 控除額
「稼ぐと税率が上がって損をする」は誤解

超過累進とは、超えた部分にだけ高い税率がかかるという意味です。

課税所得 700万円の場合
  195万円まで      … 5%
  195万〜330万円   … 10%
  330万〜695万円   … 20%
  695万〜700万円   … 23%   ← 高い税率がかかるのは、はみ出した5万円だけ

所得が1円増えて手取りが減ることはありません。 (社会保険料や各種の判定基準では、境界で不利になることがあります)

住民税も一緒に考える

所得税だけ見ていると、翌年に驚きます。

住民税 ≒ 課税所得(住民税の計算による)× 10% + 均等割

所得税と住民税を合わせた「実効税率」 で考える習慣をつけてください。

課税所得所得税率住民税合計
195万円以下5%10%15%
330万円以下10%10%20%
695万円以下20%10%30%
900万円以下23%10%33%
「経費を10万円増やすと、いくら税金が減るか」
  課税所得500万円の人 → 10万 × 30% = 3万円

第4部で「税率分しか戻らない」と書いたのは、この合計税率のことです。

復興特別所得税

復興特別所得税 = 基準所得税額 × 2.1%(2037年分まで)

源泉徴収の税率が 10.21% なのは、10% + 10% × 2.1% = 10.21% だからです (源泉徴収と報酬)。

損益通算

事業所得が赤字なら、他の所得と相殺できます

事業所得 −100万円
給与所得  400万円
→ 合計所得 300万円として計算される(払いすぎた源泉所得税が還付される)
独立した年は還付になりやすい
1〜3月: 会社員(給与から所得税を源泉徴収されている)
4月〜 : 独立(開業費・機材購入で赤字)

→ 給与所得と事業所得の赤字が通算され、源泉徴収された所得税が戻る

独立した年は、必ず確定申告してください。還付を受けられる可能性が高いです。 なお、雑所得の赤字は損益通算できません(個人事業主とは何か)。

計算例

売上                          8,400,000
必要経費                     −1,400,000
─────────────────────────────────────
事業所得(控除前)             7,000,000
青色申告特別控除               −650,000
─────────────────────────────────────
事業所得                      6,350,000

所得控除
  社会保険料控除(国民年金・国保)  −860,000
  小規模企業共済等掛金控除         −840,000
  基礎控除                        −580,000(額は改正により変動)
  生命保険料控除                   −40,000
─────────────────────────────────────
課税所得金額                   4,030,000

所得税額 = 4,030,000 × 20% − 427,500 = 378,500
復興特別所得税 = 378,500 × 2.1% ≒ 7,948
─────────────────────────────────────
合計                            386,448
  − 源泉徴収税額               −306,300
─────────────────────────────────────
納付額                           80,148
この計算に住民税・国保・事業税は含まれていない

上の例では、さらに翌年に

住民税        約40万円
国民健康保険料 約60万円(自治体・年齢による)
個人事業税     約20万円(該当する場合)

が来ます。所得税だけを見て「思ったより安い」と判断しないでください納税カレンダーと資金繰り)。

3月末で退職し、4月に開業しました。1〜3月の給与収入は180万円(所得税が源泉徴収済み)、開業後の事業所得は機材購入と開業費で40万円の赤字です。この年の確定申告について正しいものはどれでしょうか?

この章のまとめ

  • 確定申告は「売上 → 所得 → 課税所得 → 税額」の一本道
  • 所得は10種類。フリーランスは事業所得が中心。独立した年は給与所得も申告する
  • 税率は超過累進。所得が増えて手取りが減ることはない
  • 所得税+住民税の合計税率で考える(課税所得330万〜695万なら合計30%)
  • 復興特別所得税は基準所得税額の2.1%(2037年分まで)
  • 事業所得の赤字は他の所得と損益通算できる(雑所得は不可)
  • 独立した年は還付になりやすい。必ず申告する
  • 所得税の額だけを見ない。翌年に住民税・国保・事業税が続く

参考資料

読み終わったら記録しておくと、目次で進み具合が分かります。