請負・準委任・派遣
この部の 1 / 6 章 ・ 全体で 41 / 53 章 ・ 読了目安 22 分
この章を読むとできるようになること
- 契約類型ごとの責任範囲の違いを説明できる
- 提示された契約が実態と合っているか判断できる
「業務委託契約」という契約類型は、民法にありません。
実際には、その中身が請負か準委任かのどちらかです。そして、この違いは 何をもって仕事が終わったことになるかと、どこまで責任を負うかを決めます。
3つの類型
| 請負 | 準委任 | 労働者派遣 | |
|---|---|---|---|
| 義務の内容 | 仕事の完成 | 事務の処理(善管注意義務) | 労働力の提供 |
| 報酬の条件 | 完成・引渡し | 役務の提供(履行割合型)または成果(成果完成型) | 労働時間 |
| 成果物の責任 | 契約不適合責任を負う | 原則として完成義務は無い | — |
| 指揮命令 | 発注者からは受けない | 発注者からは受けない | 派遣先が行う |
| フリーランスとの関係 | 受託開発でよくある | SES・常駐でよくある | 個人事業主は当事者になれない |
個人事業主は「派遣」の当事者になれない
労働者派遣は、雇用している労働者を他社の指揮命令下で働かせる仕組みです。 個人事業主が「派遣される」ことはありえません。
もし発注者から直接の指揮命令を受けているなら、それは 偽装請負の疑いがあります(偽装請負と常駐案件)。
請負
仕事を完成させることを約束し、その結果に対して報酬を受け取る
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 成果物 | 完成させる義務がある |
| 報酬 | 原則として完成・引渡し後(分割払いは契約で定める) |
| 契約不適合責任 | 納品物が契約の内容に適合しない場合、追完・減額・損害賠償・解除の対象 |
| 期間の制限 | 契約不適合を知った時から1年以内に通知(契約で短縮・延長されることが多い) |
| 途中解除 | 注文者は損害を賠償して解除できる |
「完成」の定義があいまいだと終われない
□ 何をもって完成とするか(検収基準)
□ 検収の期間はいつまでか
□ 検収期間を過ぎたらどうなるか(みなし検収)
□ 仕様変更はどう扱うか
これが決まっていない請負契約は、永久に終わりません。 「もう少し直してほしい」が無限に続きます(業務委託契約書の読み方)。
準委任
一定の事務(業務)を処理することを約束する。完成義務は負わない
| 型 | 報酬の条件 | 例 |
|---|---|---|
| 履行割合型 | 業務を行った時間・期間に応じて | SES、月額の技術支援 |
| 成果完成型 | 成果の引渡しに対して | 成果物を伴うコンサルティング |
善管注意義務(善良な管理者の注意義務)を負います。 「完成させる義務は無いが、専門家として通常期待される注意を払う義務はある」ということです。
準委任なら何をしてもよい、ではない
× バグがあっても準委任だから責任がない
○ 専門家として通常期待される水準の作業をしていれば、
結果が出なくても債務不履行にはならない
明らかに手を抜いた、報告を怠った、という場合は善管注意義務違反になりえます。
どちらが有利か
受注側から見た一般論:
準委任のほうがリスクが小さい(完成義務・契約不適合責任を負わない)
請負は成果に対する対価なので、効率化した分の利益を取りやすい
発注側から見た一般論:
請負のほうが成果を確約させられる
準委任は柔軟に進められる
重要なのは、契約書のタイトルではなく中身です。
「業務委託契約書」というタイトルで、
条項に「乙は本件システムを完成させ、甲の検収を受けるものとする」
とあれば、それは請負です。
実務でよくある形
| 案件の形 | 典型的な類型 |
|---|---|
| Web システムの受託開発(一括) | 請負 |
| 常駐・リモートでの開発支援(月額) | 準委任(履行割合型) |
| 技術顧問・アドバイザリー | 準委任 |
| 保守・運用 | 準委任(SLA を定める場合は請負的な要素も) |
| エージェント経由の SES | 準委任 |
契約書に必ず書くこと
□ 業務の内容と範囲(何をやるのか、何をやらないのか)
□ 契約の類型が分かる表現(完成義務の有無)
□ 報酬の額・計算方法・支払期日
□ 契約期間と更新の条件
□ 検収の基準と期間(請負の場合)
□ 稼働時間の精算方法(準委任で時間精算がある場合)
□ 成果物の権利の帰属([知的財産・著作権・OSS](/chapters/ip-and-copyright/))
□ 秘密保持([秘密保持と競業避止](/chapters/nda-and-non-compete/))
□ 損害賠償の範囲と上限
□ 解除の条件と予告期間
準委任の「精算幅」を必ず確認する
SES・常駐案件では、稼働時間の下限・上限が設定されます。
例: 140〜180時間/月
140時間を下回った場合 … 時間単価で控除
180時間を超えた場合 … 時間単価で加算
□ 控除単価と加算単価が同じか(控除だけ高い契約は不利)
□ 移動時間・待機時間は稼働に含まれるか
□ 祝日の多い月の下限はどうなるか
契約書が無い場合
口約束でも契約は成立しますが、証拠がありません。
□ フリーランス新法により、発注者には取引条件の明示義務がある([フリーランス新法と下請法](/chapters/freelance-law/))
□ 契約書が難しければ、発注書・注文請書・メールでの合意でもよい
□ 最低限、業務内容・報酬・支払期日・期間は書面(電子含む)で残す
「契約書は後で」で始めない
開発が始まってから条件を詰めようとすると、立場が弱くなります。 すでに時間を投下しているため、不利な条件でも飲まざるを得なくなるからです。
着手前に、最低限の条件を書面で確認する。これだけでトラブルの大半は防げます。
「業務委託契約書」というタイトルの契約書に、「乙は本件アプリケーションを完成させ、甲の検収に合格した後に報酬を請求できる」と書かれています。検収の基準と期限の記載はありません。この契約で最も注意すべき点は何でしょうか?
この章のまとめ
- 「業務委託契約」という類型は民法に無い。中身は請負か準委任
- 請負は完成義務と契約不適合責任を負う。準委任は善管注意義務
- 類型は契約書のタイトルではなく中身で決まる
- 個人事業主は労働者派遣の当事者になれない。直接の指揮命令は偽装請負の疑い
- 請負では検収の基準と期限が生命線。無いと永久に終わらない
- 準委任では精算幅・控除単価・加算単価を確認する
- 契約書が無くても契約は成立するが、条件は必ず書面(電子含む)で残す
- 着手前に条件を固める。着手後は立場が弱くなる
参考資料
| 対象 | リンク |
|---|---|
| e-Gov 民法(請負・委任) | https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 |
| 厚生労働省 労働者派遣事業 | https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/ |
| 公正取引委員会 フリーランス法 | https://www.jftc.go.jp/ |
| フリーランス・トラブル110番 | https://freelance110.mhlw.go.jp/ |
読み終わったら記録しておくと、目次で進み具合が分かります。