フリーランスエンジニアの実務

フリーランス新法と下請法

この部の 5 / 6 章 ・ 全体で 45 / 53 章 ・ 読了目安 20

この章を読むとできるようになること
  • 発注者に課される義務を把握し、自分の取引に当てはめられる
  • 不当な扱いを受けた時の相談先を知る

2024年11月1日、フリーランス新法が施行されました。

正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」。 発注者に義務を課し、フリーランスを保護する法律です。

下請法と違い、発注者の資本金による線引きがありません。 つまり、小さな会社からの発注にも適用されます

何が変わったか

発注者の義務対象
取引条件の明示すべての業務委託
60日以内の支払期日すべての業務委託
7つの禁止行為1ヶ月以上の継続的な業務委託
募集情報の的確表示募集を行う場合
育児介護等への配慮6ヶ月以上の継続的な業務委託
ハラスメント対策の体制整備すべて
中途解除の30日前予告6ヶ月以上の継続的な業務委託
誰が保護されるか
特定受託事業者 = 従業員を使用しない個人事業主、または
                  代表者以外に役員がおらず従業員を使用しない法人

1人でやっているフリーランスなら、ほぼ該当します。

1. 取引条件の明示

発注時に、書面または電磁的方法(メール・チャットでも可)で明示する義務があります。

明示すべき事項:
  □ 業務の内容
  □ 報酬の額
  □ 支払期日
  □ 発注者・受注者の名称
  □ 業務委託をした日
  □ 給付を受領する日・場所
  □ 検査を行う場合はその完了日
  □ 現金以外で支払う場合はその内容
条件が曖昧なら、法律を根拠に依頼できる
「フリーランス法により取引条件の明示が必要と伺っています。
 業務内容・報酬額・支払期日について、メールでいただけますでしょうか」

これは正当な要求です。言いにくいことではありません。 書面が無いまま始めるほうが、双方にとってリスクです。

2. 支払期日

原則: 給付を受領した日から起算して60日以内の、できる限り短い期間内
再委託の場合: 元委託者の支払期日から起算して30日以内(一定の明示が必要)
□ 「検収完了後60日」ではなく、「受領日から60日」が基準
□ 90日サイトは、原則として認められない

3. 7つの禁止行為

1ヶ月以上の継続的な業務委託に適用されます。

禁止行為具体例
受領拒否発注した成果物の受け取りを、正当な理由なく拒む
報酬の減額合意した報酬を後から減らす(インボイス未登録を理由にした一方的減額も問題)
返品受領した成果物を正当な理由なく返す
買いたたき通常の対価に比べて著しく低い報酬を一方的に決める
購入・利用強制指定の商品・サービスの購入を強いる
不当な経済上の利益の提供要請無償での追加作業、協賛金の要求
不当な給付内容の変更・やり直し費用を負担せずに仕様変更・作り直しを求める
「消費税分は払わない」は報酬の減額になりうる

インボイス未登録を理由に、一方的に消費税相当額を差し引く行為は、 報酬の減額として問題になりえます(消費税の仕組み)。

正しい手順は、事前に協議して合意することです。 一方的な通知は、たとえ経過措置の負担が理由でも認められません。

4. 中途解除の予告

6ヶ月以上の継続的な業務委託を中途解除・不更新にする場合、
原則として30日前までに予告する義務がある
□ 予告なしの「来月から終了です」は原則違反
□ 受注者から理由の開示を求めることもできる
常駐・準委任の突然終了への備えになる

「来週から予算が無くなりまして」——常駐案件でよくある終わり方です。

30日前の予告義務があるため、次の案件を探す時間が確保されます。 契約書にも予告期間を明記しておくと、より確実になります。

5. 育児介護・ハラスメント

□ 6ヶ月以上の継続的な業務委託では、育児・介護と両立できるよう配慮する義務
□ ハラスメントに関する相談体制の整備義務

フリーランスは労働者ではないため労働法の保護を受けませんが、 この法律により一定の配慮義務が発注者に課されました

下請法との関係

下請法フリーランス法
適用の基準発注者の資本金による資本金要件なし
保護される側下請事業者特定受託事業者(従業員なしの個人等)
主な規制支払遅延・減額の禁止など取引条件明示・支払期日・7つの禁止行為など
制度は改正が続いている

下請法については、近年名称や適用範囲の見直しを含む改正が進められています。 2つの法律の適用関係は状況により変わるため、最新の情報を確認してください。

実務上は、まずフリーランス法の内容を知っておけば、大半の場面はカバーできます

トラブルになったら

窓口内容
フリーランス・トラブル110番弁護士に無料で相談できる。まずここ
公正取引委員会取引の適正化に関する申出
中小企業庁同上
厚生労働省(都道府県労働局)就業環境(ハラスメント・育児介護)に関する申出
申出をしたことを理由に、発注者が取引を停止するなどの
不利益な取扱いをすることは禁止されている
申出の前に、記録を揃える
□ 契約書・発注書・メールのやり取り
□ 作業の記録(日付・内容・時間)
□ 納品と検収の記録
□ 請求書と入金の記録
□ 減額・変更を求められた時のやり取り

証拠が無いと、どの窓口でも動けません。 日常の記録が、そのまま自分を守る材料になります(請求から回収まで)。

8ヶ月続いている月額70万円の準委任案件について、発注者から「来月末で終了します」と月末に伝えられました。契約書には解除の予告期間の定めがありません。どう考えるべきでしょうか?

この章のまとめ

  • フリーランス法(2024年11月施行)は、発注者の資本金に関係なく適用される
  • 取引条件の明示はすべての業務委託が対象。書面・電磁的方法で
  • 支払期日は受領日から60日以内
  • 1ヶ月以上の継続的委託には7つの禁止行為(受領拒否・減額・返品・買いたたき等)
  • インボイス未登録を理由にした一方的な消費税分の減額は、報酬の減額として問題になりうる
  • 6ヶ月以上の継続的委託の中途解除には、30日前の予告が必要
  • 相談はフリーランス・トラブル110番が入口。申出を理由にした不利益取扱いは禁止
  • 証拠が無いと窓口も動けない。契約・作業・請求の記録を日常的に残す

参考資料

対象リンク
公正取引委員会 フリーランス法 特設ページhttps://www.jftc.go.jp/
フリーランス・トラブル110番(厚生労働省 委託事業)https://freelance110.mhlw.go.jp/
フリーランス・トラブル110番https://freelance110.mhlw.go.jp/
中小企業庁 取引適正化https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/
読み終わったら記録しておくと、目次で進み具合が分かります。