フリーランスエンジニアの実務

年金と、自分で作るセーフティネット

この部の 6 / 6 章 ・ 全体で 9 / 53 章 ・ 読了目安 22

この章を読むとできるようになること
  • 厚生年金が無くなることの影響を数字で理解できる
  • 節税と老後資金を同時に満たす制度を使い分けられる
  • 傷病・失業に対する備えを自分で用意できる

厚生年金が無くなる、という話から始めます。

会社員の年金は2階建てでした。1階が国民年金(基礎年金)、2階が厚生年金です。 独立すると2階部分が消えて、1階だけになります。

そして保険料は全額自己負担になります。負担が増えて、受給が減る。 この章は、その穴を自分で埋める方法です。

何がどれだけ減るか

会社員(厚生年金): 老齢基礎年金 + 老齢厚生年金(報酬比例)
フリーランス(国民年金のみ): 老齢基礎年金だけ

老齢基礎年金は、40年間フル納付で年およそ83万円(毎年改定されます)。 月7万円弱です。これだけで生活するのは現実的ではありません。

減るのは老後の年金だけではありません。

保障会社員フリーランス
老齢年金基礎 + 厚生基礎のみ
障害年金障害厚生年金(3級・障害手当金もある)障害基礎年金のみ(1級・2級のみ
遺族年金遺族厚生年金(子がいなくても要件次第で支給)遺族基礎年金(原則子のある配偶者・子
傷病手当金ありなし
失業給付ありなし
労災あり原則なし(特別加入制度はある)
見落とされがちなのは障害年金

老後の話は先ですが、障害年金は明日の話になりえます。

障害厚生年金には3級と障害手当金があり、比較的軽い障害でも支給されます。 一方、障害基礎年金は1級・2級のみです。 うつ病などで働けなくなった時、この差は非常に大きくなります。

だからこそ、次に挙げる所得補償の備えが効いてきます。

国民年金は必ず払う

保険料は月1万7千円台(毎年改定)。全額が社会保険料控除になります。

納付できない時は「未納」にしない:
  □ 免除・納付猶予の申請をする(所得が低い場合)
  □ 学生納付特例(該当者)

未納 → 年金額が減るうえに、障害年金・遺族年金の受給要件を満たせなくなることがある
免除 → 障害年金・遺族年金の要件上は「納付済み」と同じ扱いになる(老齢年金は減額)
未納と免除はまったく違う

払えない時に何もしないのが最悪です。

免除・猶予を申請していれば、万一の障害時にも年金の受給要件を満たせます。 未納のまま放置すると、障害を負っても1円も出ないことがあります。

払えない時こそ、年金事務所に相談してください。

前納割引

国民年金は前払いで割引があります。

2年前納 > 1年前納 > 6ヶ月前納 > 毎月納付
(口座振替のほうが、現金・クレジットカードより割引が大きい)

資金に余裕がある年は使う価値があります。ただし前納した年に控除が集中するため、 所得が高い年に前納すると控除の効果も大きくなります。

1階建てを補強する4つの制度

節税と老後資金を同時に満たせる制度があります。フリーランスの本命です。

制度掛金の上限税務上の扱い特徴
付加年金月400円社会保険料控除2年で元が取れる。最初にやる
国民年金基金月6.8万円(iDeCo と合算)社会保険料控除終身年金。予定利率は固定
iDeCo月6.8万円(国民年金基金等と合算)小規模企業共済等掛金控除自分で運用。60歳まで引き出せない
小規模企業共済月7万円小規模企業共済等掛金控除廃業時の退職金。貸付制度がある
付加年金は理屈上いちばん効率がいい

月400円を上乗せすると、受給時に「200円 × 納付月数」が毎年加算されます。

10年(120ヶ月)納付した場合:
  払った額   400円 × 120 = 48,000円
  毎年の加算 200円 × 120 = 24,000円

  → 受給開始から2年で元が取れ、以後は生きている限り増え続ける

ただし国民年金基金とは併用できません(iDeCo とは併用可)。 申込は市区町村の窓口です。

小規模企業共済が特に効く理由

□ 掛金は全額所得控除(月7万円 = 年84万円まで)
□ 廃業・引退時に共済金として受け取る
□ 受取時は退職所得または公的年金等の扱い(税制上有利)
□ 掛金の範囲内で貸付を受けられる(資金繰りの保険になる)
ただし短期解約は元本割れする

納付期間が短いうちに任意解約すると、掛金を下回る額しか戻りません (20年未満の任意解約は元本割れ)。

「節税になるから満額」で始めて、資金が苦しくなって解約——が最悪のパターンです。 続けられる金額から始めて、所得が伸びたら増額してください。増額はいつでもできます。

iDeCo の注意点

○ 掛金は全額所得控除、運用益も非課税
× 60歳まで引き出せない(本当に一切引き出せない)
× 口座管理手数料がかかる

「引き出せない」を許容できる範囲で入れてください。 事業が苦しい時に取り崩せる資金は、別に持っておく必要があります。

なお、iDeCo の掛金上限や加入可能年齢は制度改正が続いている分野です。 加入前に最新の条件を確認してください

働けない時の備え

年金・共済は老後の話です。働けなくなった時の備えは別に要ります。

備え内容
現金生活費6ヶ月分。これが最初で最強の防御
所得補償保険・就業不能保険病気・けがで働けない期間の収入を補う。保険料は経費にならない(所得控除の対象になる場合はある)
労災の特別加入一人親方等の制度。IT フリーランス向けの特別加入団体もある
賠償責任保険納品物の不具合・情報漏えいによる賠償に備える(保険・信用・借入
小規模企業共済の貸付掛金の範囲で低利の貸付が受けられる
優先順位
1. 生活費6ヶ月分の現金(何よりも先)
2. 国民年金を確実に納める(免除申請を含む)
3. 付加年金(月400円)
4. 小規模企業共済(続けられる額から)
5. iDeCo(引き出せない前提で)
6. 所得補償・賠償責任保険(事業内容に応じて)

節税を目的に3〜5を先にやると、現金が無い状態で税金の請求が来ます。 順番を間違えないでください。

独立2年目、事業所得は600万円の見込みです。「節税になる」と聞いて、小規模企業共済を月7万円(年84万円)、iDeCo を月6.8万円(年81.6万円)の満額で始めようとしています。手元の預金は80万円です。この計画の問題は何でしょうか?

この章のまとめ

  • 独立すると年金は2階建てから1階建てになり、保険料は全額自己負担になる
  • 減るのは老後だけではない。障害年金は1級・2級のみ、遺族年金も範囲が狭い
  • 払えない時は未納にせず免除・猶予を申請する。障害年金の受給要件に直結する
  • 補強の4本柱は付加年金・国民年金基金・iDeCo・小規模企業共済
  • 付加年金は月400円で2年で元が取れる。ただし国民年金基金とは併用不可
  • 小規模企業共済は退職金づくりに向くが、短期解約は元本割れ。続けられる額から
  • iDeCo は60歳まで引き出せない。事業の運転資金とは分けて考える
  • 順番は現金 → 年金 → 付加年金 → 共済 → iDeCo → 保険。節税を先に置くと現金が尽きる

参考資料

対象リンク
日本年金機構 国民年金https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/index.html
日本年金機構 付加保険料https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/index.html
国民年金基金連合会https://www.npfa.or.jp/
iDeCo 公式サイトhttps://www.ideco-koushiki.jp/
中小機構 小規模企業共済https://www.smrj.go.jp/kyosai/skyosai/
厚生労働省 労災保険の特別加入https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/hoken/
読み終わったら記録しておくと、目次で進み具合が分かります。