フリーランスエンジニアの実務

証憑の保存と電子帳簿保存法

この部の 7 / 7 章 ・ 全体で 29 / 53 章 ・ 読了目安 20

この章を読むとできるようになること
  • 電子で受け取った証憑を電子のまま保存する要件を把握できる
  • 自分の運用ルールを決められる

帳簿は「書いて終わり」ではありません。保存まで含めて義務です。

そして2024年から、電子で受け取った請求書は電子のまま保存することが 原則として義務になりました。エンジニアは受け取る証憑のほとんどが電子なので、 この章の影響を最も強く受ける職種です。

保存が必要なもの

区分保存期間
帳簿仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、売掛帳、固定資産台帳7年
決算関係書類損益計算書、貸借対照表、棚卸表7年
現金預金取引等関係書類領収書、預金通帳、小切手控7年(前々年分の所得が300万円以下なら5年)
その他の書類請求書、見積書、契約書、納品書、注文書5年
消費税の課税事業者は7年が基本

消費税の仕入税額控除を受けるには、帳簿と請求書等の保存が要件です。 こちらは原則7年(インボイス関係の書類も同様)です。

迷ったら全部7年にしておくのが安全です。データなら保管コストはほぼゼロです。

電子帳簿保存法の3つの区分

区分内容義務か任意か
電子帳簿等保存自分が作った帳簿・決算書を電子で保存する任意
スキャナ保存紙で受け取った領収書をスキャンして保存する任意
電子取引データ保存電子で受け取った・送った取引情報を電子で保存する義務

義務なのは3つ目だけです。ここを押さえてください。

電子取引データとは

□ Web サイトからダウンロードした請求書 PDF(AWS、GitHub、SaaS 各社)
□ メールに添付されて届いた請求書・領収書
□ メール本文に記載された取引情報
□ クラウドサービス上で受け取る支払通知書・請求書
□ EC サイトの購入履歴・領収書(Amazon など)
□ 自分が電子で送った請求書の控え

これらは、電子データのまま保存する義務があります。

× 印刷して紙で保存し、データを消す(原則として不可)
○ データを保存する(加えて紙で持っておくのは自由)

保存の要件

電子取引データの保存には、真実性可視性の要件があります。

真実性の確保(いずれか1つ)

1. タイムスタンプが付与されたデータを受け取る
2. 受け取り後、速やかにタイムスタンプを付与する
3. 訂正・削除の履歴が残るシステム(または訂正削除ができないシステム)で保存する
4. 「訂正削除の防止に関する事務処理規程」を作成し、それに沿って運用する

個人事業主が現実的に選ぶのは3か4です。 会計ソフトのファイルボックスは3を満たすように作られています。

可視性の確保

□ ディスプレイ・プリンタ等を備え付け、画面と書面で速やかに出力できる
□ システムの概要書等を備え付ける
□ 検索できること(次の3項目)
    ・取引年月日
    ・取引金額
    ・取引先
検索要件は「ファイル名」でも満たせる

専用システムが無い場合、規則的なファイル名 + 一覧表でも対応できます。

20260813_50000_freee株式会社.pdf
20260820_44000_AmazonWebServices.pdf

さらに、基準期間の売上高が一定以下で、税務職員のダウンロードの求めに応じられる場合は、 検索要件が不要になる措置もあります。

とはいえ、会計ソフトのファイルボックスに入れるのが圧倒的に楽です。

猶予措置

「相当の理由」があり、税務職員の求めに応じてデータのダウンロードと 書面の提示ができる場合には、保存要件を満たさない電子データの保存も認められる という猶予措置があります。

猶予措置は「紙だけでよい」ではない

猶予措置があっても、データそのものは残しておく必要があります。 「印刷したからデータは消した」は認められません。

そして猶予措置は恒久的なものとは限りません。 最初からデータを残す運用にしておくのが安全です。

紙で受け取った領収書

□ そのまま紙で保存する(従来どおり。これで問題ない)
□ スキャナ保存の要件を満たせば、スキャンして紙を捨ててもよい(任意)

スキャナ保存には解像度・入力期間などの要件があります。 紙が少ないなら、そのまま箱に入れて保管するのが簡単です。

実務の運用例

【受け取ったら】
  電子(PDF・Web)→ ダウンロードして会計ソフトのファイルボックスへ
  紙(レシート)  → その場でスマホで撮影してアップロード+原本は月別の封筒へ

【毎週】
  ファイルボックスの未処理を取引に紐づける

【毎年】
  年度末にファイルボックスの内容をバックアップ(会計ソフト解約時に備える)
カード明細は証憑にならない

クレジットカードの利用明細は「支払った事実」を示すだけで、 「何を買ったか」「消費税がいくらか」を示しません。

特に消費税の仕入税額控除(本則課税)では、 適格請求書(インボイス)の保存が要件です。カード明細では足りません。

サービス提供者の Web サイトから、請求書・領収書 PDF を必ず取得してください。

事務処理規程

真実性の要件を「規程」で満たす場合、国税庁がサンプルを公開しています。

規程に書く内容(個人事業主用のサンプルより):
  □ 対象となる取引データの範囲
  □ 保存の方法と場所
  □ データの訂正・削除を原則禁止すること
  □ やむを得ず訂正・削除する場合の手続き(記録の作成)

A4で1〜2枚程度のものです。作って自分の事業所に備え付けておけば足ります (提出は不要)。

AWS の請求書は毎月メールで届き、コンソールからも PDF をダウンロードできます。これまでは PDF を印刷してファイルに綴じ、データは削除していました。この運用の問題は何でしょうか?

この章のまとめ

  • 帳簿は7年、書類は5〜7年の保存義務。迷ったら7年でよい
  • 電子帳簿保存法の3区分のうち、義務は「電子取引データ保存」だけ
  • Web からダウンロードした請求書・メール添付の領収書は、電子のまま保存する
  • 要件は真実性(訂正削除履歴のあるシステム or 事務処理規程)と 可視性(日付・金額・取引先で検索できる)
  • 猶予措置はあるが、データを消してよいという意味ではない
  • 紙のレシートはそのまま保管でよい(スキャナ保存は任意)
  • カード明細は証憑にならない。必ず請求書・領収書を取得する
  • 事務処理規程は国税庁のサンプルを使い、備え付けておくだけ(提出不要)

参考資料

対象リンク
国税庁 電子帳簿保存法関係https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/
国税庁 電子帳簿保存法一問一答https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/
国税庁 No.5930 帳簿書類等の保存期間https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5930.htm
国税庁 記帳・帳簿等の保存https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kojin_jigyo/kicho/index.htm
読み終わったら記録しておくと、目次で進み具合が分かります。