フリーランスエンジニアの実務

独立までのタイムライン

この部の 3 / 3 章 ・ 全体で 3 / 53 章 ・ 読了目安 16

この章を読むとできるようになること
  • 提出物と期限を時系列で把握できる
  • 期限を逃すと取り返しがつかない手続きを識別できる

手続きには期限があります。そして期限を逃した時の重さは、手続きごとに全然違います。

1日遅れても何も起きないものもあれば、1日遅れただけでその年の節税が丸ごと消えるものもあります。 この章は、いつ何をするかを時系列に並べたものです。

まず、取り返しがつかない3つから書きます。

遅れると取り返せないもの
手続き期限逃すとどうなるか
青色申告承認申請開業から2ヶ月以内(1/1〜1/15開業と既存事業者は3/15)その年は白色確定。65万円控除も赤字繰越も使えない。翌年分からやり直し
健康保険の任意継続退職日の翌日から20日以内選択肢が国民健康保険だけになる。保険料が高くなる場合がある
期限内申告(3/15)翌年3月15日青色申告特別控除が65万円 → 10万円に下がる。無申告加算税・延滞税も付く

退職の3ヶ月前

在職中の信用があるうちにやることが中心です。

□ 就業規則を確認する(副業可否・競業避止・秘密保持)
□ クレジットカードを作る(事業用に分けるので最低2枚)
□ 住宅ローン・賃貸契約・自動車ローンの予定があれば済ませる
□ 生活費6ヶ月分の現金を確保する(案件の空白と、初年度の納税に備える)
□ 案件の目星をつける(エージェント登録・知人への声かけ)
□ 会社の PC で作った成果物・ソースの扱いを確認する(持ち出さない)
辞めてから作ろうとすると通らない

クレジットカードと各種ローンの審査は、勤務先と勤続年数を見ます。 開業直後は「実績のない自営業」として扱われ、同じ人でも落ちます

住宅ローンに至っては、確定申告2〜3期分を求める金融機関が多く、 実質3年は動けなくなります

退職の1ヶ月前

□ 健康診断を受ける(会社負担のうちに)
□ 歯科・持病の治療にめどをつける
□ 有給の消化計画を立てる(最終出社日と退職日は別にできる)
□ 企業型 DC(確定拠出年金)の有無を確認する
    → 加入していたら、退職後6ヶ月以内に iDeCo へ移換する
□ 退職金の有無と支給時期を確認する
□ 退職日を月末にするか月初にするかを検討する
退職日を月末にするか、月末の前日にするか

社会保険は「月末時点でどこに所属しているか」で1ヶ月分の負担が決まります。

  • 月末日に退職: その月まで会社の健康保険・厚生年金。翌月から国民年金・国保
  • 月末の前日に退職: その月から国民年金・国保になる(自己負担で1ヶ月分増えることがある)

金額差は数万円程度ですが、知らずに損する典型例です。 迷ったら月末退職にしておくのが無難です。

退職の直後(14日〜20日以内)

ここが最も期限が厳しい期間です。市区町村の窓口と年金事務所に行きます。

手続き期限場所持ち物
国民年金への切替(第1号被保険者)退職後14日以内市区町村の窓口年金手帳・基礎年金番号・退職を証明するもの
国民健康保険への加入退職後14日以内市区町村の窓口健康保険資格喪失証明書・本人確認書類
または健康保険の任意継続退職後20日以内協会けんぽ・健保組合申請書
失業給付の相談(該当する場合)離職票の受領後ハローワーク離職票・本人確認書類
開業届を出すと失業給付は原則受けられない

失業給付は「働く意思と能力があるのに職に就けない状態」への給付です。 開業届を出した時点で、原則として対象外になります。

会社都合退職などで給付を受ける予定があるなら、開業のタイミングを含めてハローワークに先に相談してください。 虚偽の申告は不正受給になります(3倍返しの規定があります)。

開業から2ヶ月以内

税務署に出す紙です。持参・郵送・e-Tax のいずれでも出せます。

書類期限効果
個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)開業から1ヶ月以内事業の開始を届け出る。屋号の登録、屋号口座の開設に使う
所得税の青色申告承認申請書開業から2ヶ月以内青色申告の権利。これが本命
青色事業専従者給与に関する届出書該当する場合家族に給与を払う場合
給与支払事務所等の開設届出書人を雇う場合源泉徴収の義務が発生する
開業届だけ出して、青色申告承認申請を忘れる

最も多い事故がこれです。

2枚は別の紙で、期限も違います。開業届は出したのに青色の申請を忘れると、 その年は自動的に白色になり、65万円控除も、赤字の繰越も、 30万円未満の資産を一括で経費にする特例も使えません。

税率20%の人なら、65万円控除だけで所得税・住民税あわせて約20万円の差です。

開業から3ヶ月以内(実務の土台づくり)

紙の手続きより、こちらのほうが後々効きます

□ 事業用の銀行口座を作る([屋号・事業用口座・事業用カード](/chapters/business-bank-account/))
□ 事業用のクレジットカードを決める
□ 会計ソフトを契約して初期設定をする(第3部)
□ 口座・カードを会計ソフトに連携する
□ 請求書のテンプレートを作る([請求から回収まで](/chapters/billing-and-collection/))
□ インボイス登録をするか決める([インボイス制度とフリーランス](/chapters/invoice-system/))
□ 証憑の保存ルールを決める([証憑の保存と電子帳簿保存法](/chapters/receipts-and-records/))
□ 小規模企業共済・iDeCo の加入を検討する([年金と、自分で作るセーフティネット](/chapters/pension-and-safety-net/))
口座連携は「早く繋ぐほど得」

会計ソフトの口座連携は、連携した時点から先の明細を自動で取り込みます。 過去分は金融機関によって取得できる範囲が限られます。

開業直後に繋いでおけば、1年分の明細が自動で溜まります。 年末に繋いだ人は、1年分を手入力することになります。

開業1年目の年間スケジュール

 1月    源泉徴収票・支払調書が届き始める
 2月16日 確定申告の受付開始(還付申告は1月から可能)
 3月15日 確定申告と納付の期限。振替納税なら口座引落は4月
 3月31日 消費税の申告・納付の期限(課税事業者の場合)
 4月    固定資産税(該当する場合)
 6月    住民税の通知が届く(普通徴収は6月・8月・10月・翌1月の4期)
 7月    予定納税の第1期(前年の税額が一定以上の場合)
 8月    個人事業税の第1期(該当業種の場合)
 11月   予定納税の第2期/個人事業税の第2期
 12月   決算整理の準備、支払いの締め、翌年の制度改正をチェック
1年目より2年目が苦しい

独立1年目は、住民税は前年(会社員時代)の所得で計算され、 消費税も原則かかりません(消費税の仕組み)。

2年目に、1年目の所得を基準にした住民税・国民健康保険料・個人事業税が一斉に来ます。 さらに前年の税額次第で予定納税も始まります。

「1年目でうまくいった」と思って使い切ると、2年目に詰みます。 売上の2〜3割を納税用に別口座へ避けておくのが実務的な防衛策です(納税カレンダーと資金繰り)。

提出物のまとめ表

いつ何をどこへ
退職後14日以内国民年金の切替・国民健康保険の加入市区町村
退職後20日以内任意継続を選ぶ場合の申請協会けんぽ・健保組合
開業後1ヶ月以内開業届税務署
開業後2ヶ月以内青色申告承認申請書税務署
登録を決めたらインボイス(適格請求書発行事業者)登録申請税務署(国税庁)
翌年3月15日確定申告・納付税務署
翌年3月31日消費税の申告・納付税務署

3月20日に退職し、4月1日から個人事業主として働き始めました。開業届は4月中に提出しましたが、青色申告承認申請書は出していません。気づいたのが7月です。この年の申告はどうなるでしょうか?

この章のまとめ

  • 期限を逃して取り返せないのは3つ。青色申告承認申請(開業から2ヶ月)、 任意継続(退職から20日)、期限内申告(3月15日)
  • 退職3ヶ月前は在職中の信用でしかできないこと。カード・ローン・賃貸
  • 退職直後は14日以内に国民年金と国民健康保険。任意継続を選ぶなら20日以内
  • 開業届と青色申告承認申請は別の紙。片方だけ出す事故が最も多い
  • 紙より効くのは口座・カード・会計ソフトの土台。連携は早いほど自動で溜まる
  • 2年目が最も苦しい。前年所得ベースの住民税・国保・事業税・予定納税が一斉に来る。 売上の2〜3割を納税用に避けておく

参考資料

対象リンク
国税庁 個人事業の開業・廃業等届出書https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm
国税庁 所得税の青色申告承認申請手続https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/09.htm
日本年金機構 会社を退職した時の手続きhttps://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/index.html
ハローワーク 雇用保険の給付https://www.hellowork.mhlw.go.jp/
読み終わったら記録しておくと、目次で進み具合が分かります。