事業主貸・事業主借
この部の 6 / 7 章 ・ 全体で 15 / 53 章 ・ 読了目安 16 分
- 事業主貸・事業主借の意味を説明できる
- プライベート口座で払った経費を正しく記帳できる
- 「利益=自由に使える金」ではない構造を理解できる
法人の会計には出てこない、個人事業だけの科目が2つあります。
事業主貸 … 事業のお金を、自分(プライベート)が使った
事業主借 … 自分(プライベート)のお金を、事業のために使った
なぜこんな科目が要るのか。事業主とあなたが同一人物なのに、 会計上は別人として扱う必要があるからです。
事業とプライベートは「別人」として記録する
現実: あなた1人。財布も1つでいい
会計上: [事業] と [プライベート] は別の主体として記録する
[事業] ←──── お金を出す ──── [プライベート] → 事業主借
[事業] ──── お金を出す ────→ [プライベート] → 事業主貸
この2つの科目は、事業とプライベートの間のお金の通り道です。 通り道に名前を付けておくことで、事業の損益を汚さずに済みます。
主語を「事業」にすると迷いません。
事業主貸 = 事業が事業主に「貸した」 → 事業からお金が出ていく
事業主借 = 事業が事業主から「借りた」 → 事業にお金が入ってくる
もう1つの覚え方は、貸借対照表での位置です。 事業主貸は資産の部(左)、事業主借は負債・純資産の部(右)にあります。
事業主貸を使う場面
生活費を引き出した
事業用口座から20万円を生活用口座へ移した
借方: 事業主貸 200,000 貸方: 普通預金 200,000
これは経費ではありません。個人事業主は自分に給料を払えません。
事業用口座から私的な支払いをした
事業用カードで家族との食事代 8,000円を払ってしまった
借方: 事業主貸 8,000 貸方: 未払金 8,000
所得税・住民税・国民年金・国保を事業用口座から払った
これらは経費になりません(事業の費用ではなく、個人の税・保険料だから)。
所得税 400,000円を事業用口座から納付
借方: 事業主貸 400,000 貸方: 普通預金 400,000
| 経費になる(租税公課) | 経費にならない(事業主貸) |
|---|---|
| 個人事業税 | 所得税 |
| 固定資産税(事業使用分) | 住民税 |
| 印紙税 | 国民年金・国民健康保険料(※) |
| 自動車税(事業使用分の按分) | 加算税・延滞税・罰金 |
※ 国民年金・国保は経費にはなりませんが、社会保険料控除として所得から引けます(所得控除カタログ)。 経費と所得控除は別の仕組みです。
事業主借を使う場面
プライベート資金で経費を払った
個人のクレジットカードで技術書 3,000円を買った
借方: 新聞図書費 3,000 貸方: 事業主借 3,000
事業用口座を使っていなくても、経費にはできます。 「事業のお金で払っていないから経費にできない」は誤解です。
家事按分の計上
自宅家賃 年間 1,200,000円のうち、事業使用分 30% を経費にする
借方: 地代家賃 360,000 貸方: 事業主借 360,000
家賃はプライベート口座から引き落とされているのが普通なので、 相手科目は事業主借になります(家事按分の考え方)。
事業用口座に自己資金を入れた
資金が足りず、生活用口座から事業用口座へ50万円入れた
借方: 普通預金 500,000 貸方: 事業主借 500,000
事業用口座に利息が付いた
預金利息は事業の売上ではなく、個人の利子所得(源泉分離課税)
借方: 普通預金 100 貸方: 事業主借 100
freee では、これらは「プライベート資金」という決済手段で処理します。
支出を登録 → 決済口座に「プライベート資金」を選ぶ → 事業主借の仕訳になる
収入(生活費の引き出し)→ 「事業主貸」の科目を選ぶ
画面上に「事業主借」と表示されないことがあるので、 プライベート資金 = 事業主借と覚えておいてください。
期末に何が起きるか
事業主貸・事業主借は、期末に元入金へ吸収されます。
翌年の元入金 = 今年の元入金
+ 今年の所得(青色申告特別控除前)
+ 事業主借
− 事業主貸
→ 翌年1月1日時点で、事業主貸・事業主借の残高はゼロになる
つまり、毎年リセットされる科目です。年をまたいで残高が残ることはありません。
今年の所得 4,000,000
今年の事業主貸 5,500,000 ← 生活費として引き出した額
これは「稼いだ以上に生活費を引き出している」状態です。 元入金がマイナスに向かい、いずれ納税資金が足りなくなります。
帳簿を付けていれば、12月を待たずに気づけます。 これがなぜ簿記が必要かで書いた「事業が見える」の実例です。
借入金と返済
事業のために借入をした場合、元本と利息は扱いが違います。
借入時
借方: 普通預金 1,000,000 貸方: 借入金 1,000,000
返済時(元本 20,000 + 利息 1,000)
借方: 借入金 20,000 貸方: 普通預金 21,000
支払利息 1,000
元本の返済は経費になりません(負債が減るだけ)。経費になるのは利息だけです。 「返済しているのに経費が増えない」と感じるのは、この構造のためです。
自宅兼事務所の家賃(月10万円)は、個人名義の口座から自動引き落としされています。事業使用割合は30%と決めました。1年分をまとめて計上する場合の仕訳として正しいものはどれでしょうか?
この章のまとめ
- 事業主貸・事業主借は、事業とプライベートの間のお金の通り道
- 主語を「事業」にすると迷わない。事業が貸した → 事業主貸、事業が借りた → 事業主借
- 生活費の引き出しは経費ではない。全部が事業主貸
- 所得税・住民税・国民年金・国保は経費にならない(事業主貸)。 ただし年金・国保は社会保険料控除の対象
- 経費になる税金は個人事業税・固定資産税(事業分)・印紙税など
- プライベート資金で払った経費も経費にできる(相手科目が事業主借になるだけ)
- 家事按分の計上も事業主借が相手科目になることが多い
- 期末に元入金へ吸収され、翌年はゼロから始まる
- 借入金の元本返済は経費にならない。経費は利息だけ
参考資料
| 対象 | リンク |
|---|---|
| 国税庁 青色申告決算書(貸借対照表)の書き方 | https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/ |
| 国税庁 No.2210 必要経費の知識 | https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm |
| 国税庁 No.1130 社会保険料控除 | https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1130.htm |