フリーランスエンジニアの実務

家事按分の考え方

この部の 4 / 7 章 ・ 全体で 26 / 53 章 ・ 読了目安 22

この章を読むとできるようになること
  • 按分の考え方を面積・時間・使用実態から組み立てられる
  • 按分率の根拠を記録として残せる
  • 持ち家・住宅ローン控除との関係を判断できる

自宅で働くフリーランスにとって、家賃は最大の固定費です。 そして按分できれば、最大の経費にもなります。

家賃12万円 × 事業割合30% × 12ヶ月 = 43.2万円
  → 税率30%なら、約13万円の税負担が減る

ただし条件があります。「業務に必要な部分を明らかに区分できること」。 この章は、その「明らかに区分する」をどう作るかの話です。

按分の基本形

経費にできる額 = 支出の総額 × 事業使用割合

問題は事業使用割合をどう決めるかです。決め方は主に3つあります。

方法使う場面計算例
面積按分家賃・地代仕事部屋 8畳 ÷ 全体 32畳 = 25%
時間按分電気代・回線1日8時間 × 週5日 ÷ 24時間 × 7日 ≒ 24%
使用実態車・スマホ走行距離、通話明細の業務割合

家賃の按分

面積で分ける

最も説明しやすい方法です。

例: 総面積 60㎡ の賃貸。うち仕事専用の部屋が 12㎡

  事業割合 = 12 ÷ 60 = 20%
  家賃12万円 → 経費 2.4万円/月(年28.8万円)
共用部分を加味してもよい
仕事部屋 12㎡(専用)
廊下・トイレ等の共用 8㎡ のうち、業務利用分として一部を加味する

より実態に近い割合を出せますが、説明が複雑になるほど根拠の要求も上がります。 シンプルな面積按分で十分なことがほとんどです。

時間で分ける

専用の部屋が無く、リビングの一角で働く場合です。

例: リビング 20㎡ のうち作業スペースが 6㎡、1日8時間・週5日使用

  面積割合 = 6 ÷ 60(総面積)= 10%
  時間割合 = (8時間 × 5日) ÷ (24時間 × 7日) ≒ 24%

  事業割合 = 10% × ... という組み合わせ方をするか、
  作業スペースの占有時間で 10% 前後とするなど、実態に沿って決める
「なんとなく50%」がいちばん危ない

按分率に法定の基準はありません。だからこそ、根拠のない数字は否認されます。

× 「だいたい半分くらい使ってるから50%」
○ 「60㎡中12㎡が仕事専用スペースなので20%」(間取り図あり)
○ 「平日8時間、リビングの1/3を占有して作業しているため15%」(作業記録あり)

割合の大きさより、根拠の有無が見られます。

電気・水道・ガス

費目按分のしやすさ
電気代しやすい(PC・照明・空調を使う)
ガス代難しい(業務との関連を説明しにくい)
水道代難しい(同上)
電気代の按分例:
  時間按分 … 1日8時間 × 週5日 ÷ (24 × 7) ≒ 24%
  面積按分 … 仕事部屋の面積割合
  併用     … 面積 × 時間 で控えめに出す

ガス・水道は無理に入れないのが実務的な判断です。

通信費

インターネット回線 … 業務時間の比率、または業務での使用実態
スマートフォン     … 通話明細(業務用の発着信の割合)、使用時間

車関連

按分の対象: ガソリン代、自動車保険、車検・整備費、駐車場代、自動車税、
            車両の減価償却費、高速道路料金

按分の根拠: 走行距離(業務 / 私用)、使用日数
車の按分は記録が全て
□ 業務での使用日と訪問先をカレンダーに残す
□ 走行距離を月初・月末に記録する
□ 高速代・駐車場代の領収書に訪問先を書く

記録があれば70%でも通り、記録が無ければ30%でも疑われます。

持ち家の場合

賃貸と違い、家賃という支出がありません。按分できるのは次のものです。

対象按分
建物の減価償却費事業使用割合分を経費にできる
固定資産税・都市計画税同上
住宅ローンの利息同上(元本は不可
火災保険料同上
修繕費(業務スペース分)同上
住宅ローン控除との関係

自宅を事業用に使う割合が大きいと、住宅ローン控除が減額されます。

事業使用割合が 10% 以下 → 住宅ローン控除は全額使える(居住用100%として扱える)
事業使用割合が 10% 超   → 居住用部分の割合に応じて控除額が減る

住宅ローン控除の額と、按分で減る税額を比較してください。 控除額のほうが大きいなら、按分割合を10%以下に抑える判断もあります。

根拠の残し方

按分率を決めた時に、その場で記録を作ってください。

【家事按分の根拠】2026年分

■ 地代家賃(事業割合 20%)
  ・賃貸物件 総面積 60㎡(間取り図を添付)
  ・うち業務専用スペース 12㎡(洋室、作業机・モニタ・書棚を設置)
  ・12 ÷ 60 = 20%

■ 水道光熱費(電気のみ。事業割合 20%)
  ・業務スペースの面積割合に準じる
  ・平日は1日8時間以上、当該スペースで業務

■ 通信費(事業割合 70%)
  ・自宅回線は主に業務(開発・ビデオ会議)に使用
  ・私的利用は動画視聴等で夜間の一部

(写真: 業務スペースの状況、間取り図、契約書の写し)
この文書は提出しない

決算書に添付するものではありません。聞かれた時に出せるように保管しておくものです。

税務調査では「なぜこの割合ですか」と必ず聞かれます。 その場で考えた説明と、当時作った記録では、説得力がまったく違います。

記帳の方法

家賃はプライベート口座から引き落とされることが多いので、相手科目は事業主借です。

毎月計上する場合(家賃12万円、事業割合20%)
  借方: 地代家賃 24,000  貸方: 事業主借 24,000

期末にまとめる場合
  借方: 地代家賃 288,000  貸方: 事業主借 288,000

freee の家事按分の設定を使うなら、全額を計上しておいて決算時に按分させます (freee の初期設定)。両方を併用しないでください。

申告書への記載

青色申告決算書の3ページ目に「地代家賃の内訳」欄があります。

支払先の住所・氏名 / 賃借物件 / 本年中の賃借料 / うち必要経費算入額

つまり、按分していること自体は申告書に明示されます。 隠れて何かをするものではなく、根拠を持って堂々と書くものです。

家賃15万円の2LDK(65㎡)に住み、そのうち1部屋(13㎡)を仕事専用にしています。電気代は月1万円。按分率をどう設定し、年間いくらを経費にするのが妥当でしょうか?

この章のまとめ

  • 按分の要件は「業務に必要な部分を明らかに区分できること
  • 決め方は面積・時間・使用実態の3つ。家賃は面積、電気は時間・面積が使いやすい
  • 「なんとなく50%」が最も危険。割合の大きさより根拠の有無が見られる
  • ガス・水道は業務関連性の説明が難しい。無理に入れない
  • 車は記録が全て。走行距離・訪問先・使用日数を残す
  • 持ち家は減価償却費・固定資産税・ローン利息が按分対象(元本は不可
  • 事業割合が10%を超えると住宅ローン控除が減る。どちらが得か比較する
  • 按分率を決めた時に根拠メモを作る。提出はしないが、聞かれた時に出す
  • 家賃の按分は決算書3ページ目に明示される。堂々と書くもの

参考資料

対象リンク
国税庁 No.2210 必要経費の知識(家事関連費)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm
国税庁 No.1213 住宅ローン控除(店舗併用住宅)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1213.htm
国税庁 青色申告決算書の書き方https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/
読み終わったら記録しておくと、目次で進み具合が分かります。